アパート経営によって一定以上の家賃収入があると、不動産所得として確定申告する必要があります。
できれば納める税金はおさえたいというのが本音ではないでしょうか。
税金をおさえて、適切な節税を行うためには、アパート経営の経費をきちんと理解して、漏れなく計上することが重要です。
そこで今回は
- 経費として落とせる12の費用
- 経費に含まれない4つの費用
- 知らないとまずいアパート経営の確定申告
- 外せない4つの節税ポイント
- 経費計算を効率化する方法
などについて説明していきます。
「アパート経営に興味のある方」や「実際にアパート経営を行っている方」のご参考になれば幸いです。
目次
1.アパート経営における経費の対象はどこまで?
(1)経費かそうでないかの基準は?
基本的には「客観的に見て、アパート経営において必要な費用」であれば、経費として計上することができます。
つまり
- 出どころを証明できない費用
- プライベートで発生した費用
については、経費として計上することはできません。
掛かった費用をできるだけ経費として計上できれば、その分税金を抑えられますが、誤った計上をしてしまうと追加徴税がかかることがあります。
そういった無駄なコストを出さないためにも、経費への理解は非常に重要です。
まずは、経費として計上できるものから見ていきましょう。
2.経費として落とせる12の費用とは?
具体的には以下のような費用が経費として認められています。
- 租税公課
- 損害保険料
- 減価償却費
- 修繕費
- 借入金利息
- 管理費
- 交通費
- 通信費
- 新聞図書費
- 接待交際費
- 消耗品費
- 税理士や司法書士に依頼した費用
順番に詳しくみていきましょう。
(1)租税公課
アパートの購入・所有によって納付した税金は、経費として計上することができます。
基本的に税金は経費として計上できませんが、以下のような税金は計上することができます。
- 土地や建物の固定資産税・都市計画税
- アパートを取得した際に課される登録免許税・不動産取得税
- 個人事業税(法律で決まっている事業を個人で営んでいる場合に課せられる税金)
- 法人事業税
- アパート購入時に契約書に貼付する印紙税
- その他自動車税など
(2)損害保険料
所有アパートが加入している損害保険料は経費として計上できます。
- 火災保険
- 地震保険
- 賃貸住宅費用補償保険
などです。
なお、保険料は一括払いした場合でも、支払った年度分しか経費計上ができません。
例えば、2016年の3月に、10年一括の火災保険の保険料を支払った場合、2016年度の確定申告で隔離できるのは1年分の保険料です。
(3)減価償却費
減価償却費とは「建物や設備の価値は年数経過とともに落ちていく」という考え方をもとに、固定資産を使用可能期間にしたがい、少しずつ計上する費用のことです。
計上できる費用は、「取得価格」と「法定耐用年数」に応じた「償却率」によって決まります。
例えば
- 建物:5,000万円
- 法定耐用年数:40年
- 償却率:0.025(定額法)
の場合、「5000万円×0.025 = 125万円」となり、毎年125万円を40年間に渡って計上していきます。
減価償却費のポイントは「実際の支出の有無は関係ない」という点です。あくまでも帳簿上の価値が減少していくだけなので、修繕費のように実際に支出したかどうかは問われません。そのため、不動産投資の節税においてるは、償却価減費をうまく利用することが重要です。
なお、平成10年4月1日以後に取得した建物については旧定額法、平成19年4月1日以降に取得した建物は定額法のみが適用となります。
詳しい計算方法については「【税理士監修】確定申告で知っておくと得する「不動産所得」13の必要経費とは?」を参考にしてみてください。
(4)修繕費
アパートの維持管理費用、または毀損した固定資産の現状回復費用は修繕費として経費計上することができます。
具体的には以下のような費用が挙げられます。
- 建物外壁、ベランダのペンキなどの塗替え
- ドア、トイレ、台所、換気扇など設備の修理
- 畳、障子などの取り換え
などです。
ただ、下記のような固定資産の価値を高めたり、建物の耐久性を強化したりするためにかかる費用は「資本的支出」となります。修繕費ではなく、建物や設備といった減価償却費の対象となる場合があるので注意してください。
- 用途変更のための模様替えなど、改造または改装に直接用いた費用
- 建物の避難階段の取付けなど、物理的に付け加えた部分の費用
しかし、以下の場合はその年度の修繕費として計上することができますので、忘れずに計上しましょう。
- おおむね3年以内を周期として修繕が行われる時
- 費用が20万円未満の場合
- 修繕費か資本的支出かの判断が不明確で、60万円未満の場合
- 前年度末の資産取得価格のおおむね10%以下である場合
(5)借入金利息
金融機関から融資を受けてアパートを購入した場合、その借入金の利息は経費として計上することができます。
しかし、以下の費用は経費として計上できないので注意しましょう。
- 借入金の返済額のうち、元本に相当する部分
- 賃貸としての業務が開始する前の利息部分
- 土地購入に該当する金額
(6)管理費
アパートの管理に伴う費用は必要経費として計上することができます。
- 入居者募集の広告宣伝
- アパート内の清掃
などにかかる費用です。
(7)交通費
アパート経営上必要な移動で発生した交通費は、経費として計上することができます。
- 不動産投資会社が主催したセミナーに参加するための交通費
- 管理会社などと打合せするための交通費
- 物件を見に行くための交通費
などです。
また、移動手段として車を利用した場合
- ガソリン代
- 駐車場代
- 高速道路料金
- 車検費用
- 自動車保険料
- 自動車税
など車に関わる費用も必要経費として計上することができます。
しかし、プライベートでも同じ車を利用する場合は注意が必要です。この場合については按分することになります。
按分とは簡単にいうと「割合で計算すること」です。詳しくは3.(1)プライベートな交通費や通信費でご説明します。
(8)通信費
アパート経営上必要に応じて利用した通信にかかる費用は、通信費として計上することができます。
- 管理会社と連絡した際の通話料
- 物件検索時のインターネット通信費
などです。
通信費もプライベートと共用している場合は按分計算するのが基本です。
(9)新聞図書費
アパート経営において、不動産や経済動向といった必要な情報収集にかかった費用は、経費として計上することができます。
- 新聞
- 本
などの購入にかかる費用です。不動産に関するセミナーへの参加費も経費に含めることができます。
(10)接待交際費
経営上必要な会食などで発生した飲食費は、経費として認められる場合があります。
例えば
- 税理士や管理会社などと打合せするための飲食費
- 不動産投資仲間との意見交流するための飲食費
などがあたります。
(11)消耗品費
アパート経営で利用した消耗品については、10万円以下であれば経費計上することができます。
例えば
- 帳簿をつけるためのペンやノート
- 物件撮影するためのデジカメ
- 物件検索や確定申告するためのパソコン
などです。10万円以上のものについては、減価償却費として計上する必要があるので注意が必要です。
(12)税理士や司法書士に依頼した費用
アパート経営に関する業務に関して、税理士や司法書士へ依頼した費用は、経費として計上することができます。
- 登記手続き
- 会計上のアドバイス
などにかかる費用です。依頼する内容にもよりますが、10〜20万円程度が相場のようです。
3.経費に含まれない4つの費用とは?
以下のようなものは経費として認められていません。
- プライベートな交通費や通信費
- 不動産に関係の無い税金
- 借入金返済時の元本
- 申告不備などで生じた罰金
順に見ていきましょう。
(1)プライベートな交通費や通信費
プライベートで生じた移動の交通費やインターネット通信費は、経費として計上できません。
とはいっても、「アパート経営とプライベートで利用している車や回線が同じ」ということもあります。
この場合には、「家事按分」といって
- 事業に使った利用割合
- プライベートの利用割合
を計算して、プライベート部分を経費から除く必要があります。
たとえば、乗用車でプライベート50キロ、不動産事業50キロの合計100キロ走行して1万円のガソリン代がかかった場合、経費として計上できるのは5,000円になります。
(2)アパートの購入や所有以外で生じた税金
基本的に税金は、経費として計上することができません。
- 所得税
- 法人税
- 住民税
などの税金は、いくら納めても経費にとはならないので注意しましょう。
(3)借入金返済時の元本部分
ローン利用に伴う、元本部分の返済額は、経費とは認められません。
元本についての返済は「借りたお金をただ返しているだけ」となり、アパート経営とは関係しないという考え方になります。
前項でも紹介した「利子部分」については経費になるので、返済時にはどこまでが元本なのかをしっかり確認しましょう。
(4)申告不備などで生じた罰金
アパート経営に関係のある事でも、自分の不手際で生じた罰金は、経費にはできません。
- 確定申告での不備による追加徴税
- 車移動中のスピード違反で支払った罰金
などです。
4.知らないとまずいアパート経営の確定申告とは?
(1)20万以上の家賃収入には確定申告が必要
会社員として働いているなら会社が源泉徴収してくれますが、家賃による収入が20万円以上になると自身で確定申告する必要があります。節税や損失の繰延などのメリットも多くあるので積極的に行いましょう。
不動産所得は以下の式のように、1年間の不動産による総収入金額から必要な経費を控除して計算します。
「不動産所得=1年間総収入金額-経費-所得控除」
この式からも分かるように、経費が多ければ支払う税金の金額を減らすことができます。
また、アパート経営にかかる税金としては以下のものがあります。
- 所得税
- 住民税
- 個人事業税
- 消費税
- 固定資産税
(2)確定申告の流れ
確定申告手続きは大きく以下の4つのステップになります。
- 確定申告に必要な書類を準備する
- 決算書を作成する
- 確定申告書を作成する
- 申請手続を行う
確定申告の期間は、毎年2月16日~3月25日です。
開始と終了日が土日祝日である場合は、それぞれ次の平日となります。
「必要な書類」や「申請書の書き方」などについて詳しく知りたい方は
「【税理士が教える】サラリーマンでも確定申告で還付が受けられる6つのケース」をご参照ください。
(3)確定申告でのペナルティとは
確定申告でペナルティ受ける場合は、主に以下の3つです。
- 申告漏れ
- 無申告
- 虚偽申告
申告漏れがあった場合は、過少申告加算税10%が必要となることがあります。
また、無申告だった場合は、未払いの税金に加えて、無申告加算税20%や延滞税も発生し
さらに、虚偽の申告をしていた場合には、40%の重加算税がかかる場合も少なくありません。
その他にも
- 国税局から脱税として告発される
- 青色申告の承認が取り消し(1年間は再申請不可)
- 金融機関での信用が下がる
といったデメリットを負う可能性もあるので、確定申告は適切に行いましょう。
確定申告についてもっと詳しく知りたい方は
「不動産投資に確定申告はつきもの! 中身を知って得する方法」をご覧ください。
5.外せない4つの節税ポイントとは?
アパート経営における節税効果を高めるポイントは以下の4つです。
- 費用の証明書類を保管する
- 青色申告をする
- 法人化する
- 損益通算を行う
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
(1)費用の証明書類を保管する
こまめに領収書やレシートなどの経費を証明できる書類を保管しましょう。
こうした費用を証明できるものがないと、確定申告時に経費として計上することができません。
損害保険料や管理費などアパート経営に直接関わる費用はもちろんですが、交際費やローンにかかる金利手数料などの証明となる書類は、しっかりと取っておきましょう。
(2)青色申告をする
確定申告をする際には、期限内に青色申告をすることで、様々な節税効果が期待できます。
確定申告には、以下の2種類があります。
- 白色申告
- 青色申告
白色申告は、事前申請も必要なく、単式簿記なので帳簿をつけるのが楽ですが、経費として認められる範囲は狭いです。
一方、青色申告では
- 最大65万円の控除が受けられる
- 3年間の赤字を繰延できるので、課税所得額を減らせる
- 家族への給与も経費にできる
といったメリットがあります。
ただ、開業日から2ヶ月以内に「青色申告承認申請書」を所轄の税務署に提出する必要があります。
また、65万円控除を受けるには、「複式簿記」で記帳したうえで、「電磁的記録の備付けおよび保存」「e-Taxによる電子申告」のいずれかを満たす必要があります。
青色申告についてより詳しく知りたい方は
「不動産投資に確定申告はつきもの! 中身を知って得する方法」を御覧ください。
(3)法人化する
不動産所得による年収が900万円を超えたら法人化することをおすすめします。
不動産による収入が900万円以下の場合
- 法人税率:最大23.2%(区分による違いあり)
- 個人の所得税率:23%
となっているので、個人の所得税率の方が税率が低いのです。
しかし、900万円を超えてくると個人の所得税率は33%となり、法人税率の方が低くなるのです。
また、法人化することで
- 経費の範囲拡大
- 損失の繰越期間延長
といったメリットもあります。
法人化についてより詳しく知りたい方は
「不動産投資は個人事業主でもできる?節税から法人化のタイミングもご紹介!」を御覧ください。
(4)損益通算を行う
損益通算を利用することで、所得税や住民税を減らすことができます。
アパート経営などによる不動産所得は、給与所得や事業所得などのほかの所得との損益通算をすることができます。損益通算とは、一定期間内の利益と損失を相殺できることです。
アパート経営が赤字になった場合、その赤字分を他の給与所得から差し引くことで、所得額を減らすことができます。これにより所得税が減税され、住民税も減税されます。
不動産投資では、初期投資費用や減価償却費などがかかるため、実際は黒字でも帳簿上は赤字になることは少なくありません。こうして発生した赤字を上手く利用することで、税金を抑えることができるのです。
損益通算についてより詳しく知りたい方は
「損しないために!不動産所得が赤字の時の損益通算について」を御覧ください。
6.経費計算を効率化する方法
アパートを経営する上で、経費の計算は避けては通れませんが、領収書やレシートから細かい費用を計算したり、例外的な経費を除いたりするのは、なかなか骨が折れます。
そんな経費計算を効率化するには
- 会計ソフトを利用する
- 税理士に依頼する
といった手段をとるのが得策でしょう。
経理ソフトや税理士にかかる費用も経費なので、こうしたツールを利用することで、より効率的に時間を活用することができます。
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(2)税理士に依頼する
仕事で忙しくてなかなか時間がない方には、税理士などの専門家に依頼するのが得策です。
まずは、無料で複数の税理士事務所の見積を取得できる「税理士ドットコム」を利用してみるのはいかがでしょう。費用を比較することで、自分にあった税理士の方を見つけることができます。
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まとめ
今回はアパート経営の経費についてご紹介致しました。
経費についての理解が浅いと、支払い必要のない税金まで支払ってしまったなんてことにもなりかねません。
経費の対象範囲や制度の利用、適切な確定申告を行うことで、大きな節税効果につながり、より質の高いアパート経営につながるでしょう。