不動産投資で節税をするには、どのような対策をすれば良いでしょうか。
不動産投資での節税目的は、
- 所得税・住民税を減らすため
- 贈与税・相続税を減らすため
の2つがあります。
この記事では、節税のために減価償却を有効に活用する方法と、どんな人が節税に向いているのかについてご説明します。
(尾嵜豪・不動産コンサルティングマスター、ウィンドゲート代表取締役)
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目次
1、不動産投資でできる節税対策を紹介
不動産投資では、所得税や住民税、贈与税、相続税の節税が期待できます。
この章では、それぞれどんなしくみで節税できるのかについて解説します。
(1)所得税・住民税
所得税とは、個人の所得に対してかかる税金です。
住民税とは、都道府県と市区町村から課される税金です。
所得税も住民税も、1年間の全ての所得から所得控除を差し引いた残りの課税所得により、税額が決まります。
給与所得や事業所得は、各種所得の合計額に課税される「総合課税」に分類されますが、不動産所得も「総合課税」です。
総合課税は、「損益通算」ができます。不動産所得で赤字になったとしても、給与所得と損益通算できるため、節税になるのです。
(参照:No.2260 所得税の税率)
(2)贈与税
贈与税は、個人から財産をもらったときにかかる税金です。
贈与税は、贈与を受けた年の1月1日~12月31日にもらった財産の合計額によって決まります。財産となるものには現金、不動産、有価証券などさまざまなものがありますが、それぞれ評価方法が決まっています。
一般的に、不動産の評価額は現金に比べて低くなるため、不動産として贈与する方が節税になるのです。
(参照:No.4402 贈与税がかかる場合)
(3)相続税
相続税は、個人が被相続人(亡くなった人のこと)から相続などによって財産を取得した場合に、その取得した財産に課される税金です。
贈与税と同様に、不動産の評価額は現金より低くなるため、不動産として相続した方が節税につながります。
(参照:No.4102 相続税がかかる場合)
次章では、不動産投資をする人全てに関わる「所得税・住民税」の節税に大きく影響する、減価償却について詳しく解説します。
2、不動産投資では減価償却が節税に有効な理由を解説
不動産投資による節税は、減価償却という考え方がキーになります。
この章では、減価償却について解説します。
(1)減価償却とは
減価償却とは、「資産は時間が経つにつれて、価値が減っていく」という考え方のことをいいます。
減価償却の対象になる資産は、購入価格が1つあたり10万円以上の固定資産です。
長期間継続的に使用できるものなので、耐用年数が法令で定められており、耐用年数に応じて経費として計上できます。
(参照:耐用年数表)
(2)不動産投資における減価償却
不動産で減価償却の対象になるのは、建物と建物の付帯設備です。
土地や借地権は年月の経過によって劣化しないため、減価償却の対象にはなりません。
日本の不動産の考え方は土地と建物を合わせたものであり、併せて購入するのが基本で、区分所有マンションを購入した場合も同様です。
マンションで土地も買っていることに対してあまりピンと来ないかもしれませんが、マンションの敷地というのは所有者全体から見て、個々の部屋の専有面積で分けた権利を共同で所有していることになります。
建物部分は購入時に、一定の割合で価格を構成しています。
物件や築年数・エリアによりますが、購入価格の30%程度が建物価格であるようなケースが多いです。
仮に、物件価格が3000万円、そのうち建物価格が1000万円と想定すると、購入時に1000万すべてを経費計上するのではなく、建物の構造に合わせた耐用年数で分けて経費計上していきます。
国税庁が定めている「耐用年数」を見ると、鉄筋コンクリート(RC)造の建物だと47年、木造だと22年となります。
(参照:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数(建物・建物附属設備)」)
ただしもし中古で購入した場合は、
・法定耐用年数の全部を経過した資産⇒法定耐用年数の20%相当年数
・法定耐用年数の一部を経過した資産⇒法定耐用年数-経過年数+経過年数の20%
という計算式となるので、築25年の鉄筋コンクリート造の区分所有マンションを購入した場合の減価償却期間は27年となります。
建物価格が1000万の場合、年間約37万円を経費計上することが可能となります。
家賃収入-経費=不動産所得となりますので、不動産所得を軽減させ、課税額を減らす効果があるのです。
経費について詳しくは、「不動産所得の経費とは?所得税の計算や確定申告など税理士が解説」も併せてご参照ください。
3、減価償却による節税の注意点
減価償却による節税には、実は落とし穴があります。この章では、減価償却による節税の注意点を解説します。
(1)所得税・住民税率と譲渡税率の差に着目
減価償却期間に還付された税金は、将来の売却時に利益として計上され、ほぼ同額の譲渡税を支払うことになります。
経費として利益を減らす効果があり、確定申告をすることで目に見えて減税効果があるように見えますが、実は単にその年に課税をしなくてよい、というだけなのです。
そのため、減価償却だけで節税が出来たと喜ぶのは早いでしょう。
しかし、減価償却期間中の所得税・住民税と譲渡税の税率に差がある場合は、節税効果があります。
例えば、給与所得が1000万円の場合、所得税・住民税率は合わせて33%です。
長期譲渡の場合、売却時にかかる譲渡税は20%ですから、譲渡税を選択した方が節税になるのです。
給与所得が高くなればなるほど、税率差が大きくなるので、給与所得が高い人ほど節税効果が高いといえます。
※長期譲渡…売った年の1月1日現在で、土地や建物の所有期間が5年を超える場合。譲渡税率は20%
短期譲渡…売った年の1月1日現在で、土地や建物の所有期間が5年以下の場合。譲渡税率は39%
(2)物件売却とデッドクロス
税率の差を利用して、長期譲渡に該当する期間に物件を売却すると節税になると書きましたが、長期譲渡の該当期間であれば、いつでも売却していいというわけではありません。
売却の期限は、「デッドクロス」が発生する前です。
不動産経営におけるデッドクロスとは、借入れの元金返済額が減価償却費を上回ってしまうことをいいます。
デッドクロスが起きると、帳簿上の利益は黒字なのに手元の資金がなくなり、経営破綻になってしまうのです。
デッドクロスが発生する前に物件を売却できるように、しっかりと出口戦略をたてましょう。
デッドクロスについて詳しくは、「デッドクロスの仕組みと黒字倒産しないための10個の回避策」を併せてご参照ください。
4、不動産投資の節税効果が得られる条件とは?
不動産投資による節税効果を得るには、条件があります。
3ー(1)でも触れましたが、この章では節税効果が得られる条件について、さらに詳しく解説します。
(1)節税効果がある場合
節税効果があるのは、課税所得が900万円を超える人です。
例えば、サラリーマンとして給与課税所得が
- 900万円を超え1,800万円以下は33%から一定の控除額
- 1,800万円を超え4,000万円以下は40%から一定の控除額
- 4,000万円以上は45%から一定の控除額
が課税されますので、年度ごとにその分の課税が一度軽減されることになります。
一方で、売却時には
・短期譲渡所得(所有期間が5年以下の場合)
39.63%(所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%)
・長期譲渡所得(所有期間が5年超の場合)
20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)
となり、繰り延べられた償却金額に対して課税されます。
以上より、一定以上の課税所得があり、かつ5年超所有してから売却した場合には、一定の節税効果が認められるということになるのです。
ただし、これらは条件によって適用が異なる可能性もありますので、信頼できる税理士に相談されることをおすすめします。
(2)節税効果がない場合
課税所得が900万円以下の場合は、節税効果があまりありません。
なぜなら、所得税・住民税率と、譲渡税率に大きな差がないからです。
課税所得が900万円以下の人は、収益性を重視した不動産投資をおすすめします。
5、不動産投資を節税のために法人化するメリット・デメリット
節税のために法人化するといい、と耳にしたことがある方もいらっしゃるでしょう。
この章では、不動産投資事業を法人化するメリット・デメリットを紹介します。
(1)法人化のメリット
①最大税率が低い
法人税は最大税率が33%で、個人の所得税・住民税の最大税率55%に比べると低いため、所得が多い人は法人化した方が節税できるケースが多くなります。
(参照:No.5759 法人税の税率)
②法人として経費を計上できる
個人よりも多くの経費を計上することができる点も、節税につながるためメリットといえるでしょう。
③青色申告をすることで会計上の赤字を10年繰り越せる
青色申告する法人の場合、平成27年の税制の改正により、会計上の赤字を10年間繰り越すことができるようになりました。
ある年度で赤字が出た後、利益が多く出た年度に赤字を繰り越すことで相殺できるため、節税できます。
④贈与税や相続税が発生しない
個人事業主として不動産投資する場合、不動産の所有者は個人のため、贈与・相続する場合には贈与税・相続税がかかります。
一方、法人所有の不動産であれば、代表が亡くなった場合でも贈与税・相続税がかからないため、相続時の節税につながります。
⑤減価償却するかしないかを選べる
減価償却せずに、5年以内に物件を売却する場合は、法人税率のほうが個人税率よりも低くなります。
短期譲渡を予定しているケースは、法人化した方が節税になるでしょう。
(2)法人化のデメリット
①法人設立に費用がかかる
法人を設立する際は、20~30万円の費用がかかります。
加えて、印鑑作成、司法書士への依頼、開業届の提出など、手間がかかることも覚えておきましょう。
②赤字でも法人税を支払う必要がある
法人は、利益がある場合は法人税・住民税を支払います。
赤字でも「住民税均等割」という税金がかかるため、少なくとも1年度に7万円の納税が発生します。
③維持費用がかかる
社会保険料や、税理士に支払う報酬などの維持費用がかかってきます。
④5年以上保有した物件の売却時にかかる譲渡税が高くなる
5年以上保有した物件を売却する際は、長期譲渡にあたるため、個人の譲渡税は20%になります。
一方、法人の譲渡税は約30%になるため、個人よりも高い譲渡税を払わなければならないのです。
⑤投資期間中の法人切り替えには費用がかかる
個人名義の物件を法人名義に切り替える際には、改めて不動産取得税と登記費用を支払う必要があります。
6、節税効果が高い物件と低い物件
物件によっても、節税効果が高い場合と低い場合があります。
この章では、それぞれの物件の特徴を解説します。
(1)節税効果が高い物件とは
節税効果が高い物件は、木造で築古の物件です。
木造の建物の耐用年数は22年で、他構造に比べて短いため、建物価格や築年数が同じ他の物件より減価償却費を大きくとることができます。
さらに、耐用年数が切れた物件は、耐用年数の20%の年数が適用されるため、建物価格や構造が同じ他の物件より減価償却費を大きくとることができるのです。
(2)節税効果が低い物件とは
一方、節税効果が低い物件は、新築の区分マンションです。
新築区分マンションは耐用年数が47年で、減価償却期間が長く、1年分の減価償却費が少なくなるためです。
年月がたち、ローン返済が減価償却費より多くなると、黒字になるため納税義務が発生します。
給与所得と合算した時に支払う税金が多くなり、手残りが減ってしまうケースがあるので、不動産投資は出口までのシュミレーションが非常に大切になります。
まとめ
不動産投資=節税というイメージがある方もいらっしゃるかもしれませんが、不動産投資の節税は条件が多く、法改正などで節税効果を得られない可能性もあります。
そのため、節税を主な目的として不動産投資をするよりも、やはり将来価値の上がる物件を前提にして投資される方が良いでしょう。
不動産投資での節税を考えている場合は、不動産に強い税理士が講師となって開催するセミナーを受講したり、出口戦略まで相談できる不動産投資会社を選ぶことをおすすめします。