アパートローンの繰り上げ返済は、将来の金利負担を減らし、資産の早期回収を目指す重要な戦略です。しかし、すべての選択肢が万人に適しているわけではありません。
この記事では、繰り上げ返済のメリットとデメリットを詳しく解説し、あなたの投資戦略に合わせた最適なタイミングを判断するためのポイントをご紹介します。
アパート経営の資金計画において、賢い選択をするための知識を手に入れましょう。
「賃貸経営の仕組みとメリットデメリット【賃貸経営の実態を知りたい方に】」の記事では、賃貸経営全般について解説しています。ぜひ併せてご覧ください。
目次
1、アパートローンの繰り上げ返済は2種類ある
繰り上げ返済とは、毎月の返済額とは別に、まとまった額を返済することです。
返済は元本に充てられるため、繰り上げ返済する元本分の利息が減り、トータルの支払額を減らすことができます。
まずは、繰り上げ返済の種類と、それぞれの効果のちがいをみてみましょう。
(1)期間短縮
アパートローンの繰り上げ返済における「期間短縮型」は、返済額を増やしてローンの返済期間を短縮する方法です。この選択をすると、以下のような特徴があります:
返済期間の短縮
繰り上げ返済により、元本が早く減少するため、全体の返済期間が短くなります。これにより、将来にわたる利息の支払いが減少し、総返済額が抑えられます。
月々の返済額の維持
繰り上げ返済後も、月々の返済額は変わらず、支払い期間のみが短縮されるため、毎月の支出計画に影響を与えません。
金利コストの削減
返済期間が短縮されることで、支払う総利息が減少し、コスト削減に繋がります。
利用する際の考慮点
事前の準備
繰り上げ返済を行う前に、返済プランと財務状態を再確認し、無理のない範囲で計画を立てることが重要です。
手数料の確認
一部の金融機関では、繰り上げ返済に手数料がかかる場合があります。手数料の有無や金額について事前に確認しましょう。
柔軟性の確保
繰り上げ返済後にも、経済状況の変化に柔軟に対応できるように計画を立てることが望ましいです。
期間短縮型の繰り上げ返済は、特に利息負担を減らしたいと考えている借り手にとって有効な選択肢となります。個人の財務目標やローンの条件に合わせて検討すると良いでしょう。一方、月々の返済額は変わらないため、繰り上げ返済によってすぐにキャッシュフローが良くなるという効果はありません。
(2)返済額軽減型
返済期間は変えずに、繰り上げ返済した翌月からの返済額を減らす方法です。月々の支出が減るため、即効性のあるキャッシュフローの改善を図ることができます。一方、利息部分の減額率は、期間短縮型よりも低くなります。
月々の返済額の減少
繰り上げ返済により元本が減少し、それに伴って計算される月々の返済額が減るため、毎月の負担が軽減されます。
キャッシュフローの改善
返済額が減少することで、手元に残る資金が増え、他の投資や支出に余裕が生まれます。
利息負担の緩和
元本が減ることで、その後の利息計算基準が下がり、長期的な利息負担も多少軽減されますが、返済期間は原則として変わらないため、期間短縮型ほどの利息削減効果は期待できません。
利用する際の考慮点
繰り上げ返済の効果評価
繰り上げ返済後の具体的な返済額の変動を事前に試算し、その影響を理解することが重要です。
手数料の確認
繰り上げ返済を行う際には手数料がかかることがありますので、その費用も考慮に入れる必要があります。
将来の計画との調整
月々の返済額が減ることで即時の財務負担は軽減されますが、全体の返済計画や将来の資金計画との兼ね合いを考えることが重要です。
返済額軽減型は、現在のキャッシュフローに余裕を持たせたい場合や、他に資金を回したいと考えている人に適しています。経済状況や将来の計画に応じて、この方法が最適かどうかを検討すると良いでしょう。
2、アパートローンを繰り上げ返済するメリット
アパートローンを繰り上げ返済することには複数のメリットがあります。これらは財務的な利益だけでなく、心理的な安心感をもたらすことも含まれます。以下に主なメリットを列挙します:
(1)利息費用の削減
繰り上げ返済によりローンの元本が減少するため、その結果として支払う総利息額も少なくなります。特に金利が高い場合やローン期間が長い場合、この効果は顕著です。
(2)返済期間の短縮
元本を早期に減らすことで、ローンの返済期間を短縮できます。これにより、将来の金融リスクが減少し、早期に財務的な自由を実現することが可能になります。
(3)キャッシュフローの改善
返済額軽減型の繰り上げ返済を行うと、毎月の返済額が減少し、それによって可処分所得が増えます。この余裕があるキャッシュフローは、他の投資機会に利用することができます。
(4)経済的な不安の軽減
ローンの負担が早期に軽減されることで、経済的な不安が減り、精神的な安心感が増します。ローンが完済に近づくにつれて、将来に対する計画がより明確に立てやすくなります。
(5)資産価値の向上
不動産を抵当に入れたローンの場合、早期返済によって抵当権が早く解除されるため、その不動産の純粋な資産価値が向上します。これは、将来の再投資や資産の売却時に有利に働くことがあります。
(6)金融機関との交渉力の向上
ローンの元本が減少することで、その他の金融商品やサービスについて金融機関とより有利な条件で交渉することが可能になる場合があります。
アパートローンの繰り上げ返済は、これらのメリットを享受できる可能性がありますが、個々の財務状況や市場条件、金融機関の具体的なローン条件によって最適な選択が異なるため、事前の計画と慎重な検討が必要です。
3、アパートローンを繰り上げ返済するデメリット
アパートローンを繰り上げ返済する際には、多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも考慮する必要があります。以下に主なデメリットを挙げてみます。
(1)流動性の低下
繰り上げ返済により手元の現金をローンの返済に充てるため、緊急時や他の投資機会が生じた際に利用可能な現金が不足する可能性があります。これにより、流動性が制限され、金融の柔軟性が低下することがあります。
(2)手数料の発生
一部の金融機関では、繰り上げ返済に手数料がかかる場合があります。これは特に、ローン契約の条件によって異なりますが、手数料が高額になる場合、そのコストが繰り上げ返済の利益を相殺してしまうことも考えられます。
(3)税制上の機会損失
特定の財務状況においては、ローンの利息支払いを税務上の控除として利用できる場合があります。ローンを早期に返済することで、これらの税制優遇を活用する機会が減少することがあります。
(4)投資リターンの機会損失
利用可能な資金を繰り上げ返済に使用することで、他の高利回りの投資機会を逃す可能性があります。市場によっては、ローンの利息よりも高いリターンを得られる投資が存在するため、繰り上げ返済の代わりにその資金を投資に回す方が有利な場合があります。
(5)早期返済ペナルティ
特に商業ローンや一部の住宅ローンでは、ローンを早期に完済することでペナルティが課されることがあります。これはローン提供者が予定していた利息収入を確保するための措置であり、このペナルティは繰り上げ返済のコストをさらに増加させる可能性があります。
これらのデメリットを考慮することで、アパートローンの繰り上げ返済が自身の財務戦略に合致しているかどうかをより良く評価することができます。必ず、個々の状況に応じて専門家と相談し、全体的な財務計画の一環として検討することが推奨されます。
4、繰り上げ返済を検討するときのポイント
この章では、繰り上げ返済で失敗しないために、検討するときのポイントについて解説します。
(1)違約金・損害金を確認する
繰り上げ返済時に違約金・損害金がかかる金融機関があります。手数料が実質的な違約金・損害金になることもあります。金融機関側から見ると、繰り上げ返済により減った利息の分だけ、儲けが減ることになります。
そのため、喪失した利息分を少しでも補うために、繰り上げ返済する際には手数料や違約金・損害金を支払うことが契約で決められているのです。まずは契約書を見直し、契約内容を把握することから行いましょう。
(2)繰り上げ返済後のシミュレーションをする
繰り上げ返済後に、損益やキャッシュフローがどのように変化するのか、シミュレーションすることが非常に大切です。繰り上げ返済は、タイミングにより効果が大きく異なります。
ローンの種類は、「元利均等返済」と「元金均等返済」の2種類です。いずれも返済開始初期であるほど返済金に対しての金利割合が高く、返済後期になるほど金利割合が低くなります。
したがって、早いタイミングで繰り上げ返済するほど金利部分を減らせるため、効果が高くなるケースが一般的です。
(3)現金をどのくらい残すか確認する
急な出費に対応するための現金をどのくらい残すべきかは、個人の状況により異なります。子どもがいる場合は、子どもにかかる出費を考慮する必要がありますし、病気などで想定外の医療費がかかる場合もあります。
アパートの設備の修繕や、空室や滞納が続いた場合も想定しなければなりません。このように、起こり得る急な出費を想定し、対応できるだけの現金を残した上で繰り上げ返済をすることは、リスクを回避することにつながるでしょう。
(4)投資戦略をふまえて検討する
自身の「投資戦略」によって、繰り上げ返済のメリット・デメリットは変わってきます。
今後、アパート経営を拡大していく戦略がある場合、金融機関に経営能力、支払い能力が高いという印象を与えられると、長期的に見てメリットがある可能性があります。また、自己資金に余裕があり、とにかく返済を軽減したいと考えている方は、積極的に繰り上げ返済をすることも戦略のひとつになるでしょう。
一方、繰り上げ返済をすることでローンによるレバレッジ効果は低くなります。不動産投資は、他人資本で投資ができる点が大きなメリットになるため、そのメリットを最大限に活かすことができなくなることも覚えておきましょう。
(5)所得税額が増える可能性があることを考慮する
繰り上げ返済により支払う利息が減ると経費も削減されることになり、課税対象額が増えます。そのため、所得税額が増える可能性があるのです。
アパート経営による不動産所得は、家賃収入から様々な経費をひいたものになります。繰り上げ返済により利息の支払いを減らすことができますが、その分経費も減ることを考慮して行いましょう。
アパート経営の税金については、「アパート経営の税金7種を解説!節税方法も説明します」で詳しく解説しています。ぜひ併せてご覧ください。
アパートローン繰り上げ返済に関するよくある質問
(1)複数の不動産投資ローンを契約している場合は?
契約しているアパートローンの金利や返済期間、残高などを比較し、繰り上げ返済するアパートローンを選択する必要があります。
ポイントは、
- 金利の高いローン
- 残額の多いローン
から返済することです。
どちらも、どの選択肢が支払う利息分を減額できる効果が高くなるか、がカギになります。
(2)ローンの見直し時に他の選択肢はある?
金利を下げたい場合は、「借り換え」という選択肢があります。
借り換えについては、「不動産投資ローンの借り換え成功のために知っておきたい6つのこと」で詳しく解説しています。ぜひ併せてご覧ください。
(3)繰り上げ返済でローンを完済したらすることはある?
「抵当権抹消手続き」をする必要があります。抵当権は、ローンを返済するまでは対象の不動産が金融機関の抵当に入っていることを示すものです。
そのため、ローンを完済した場合は抵当権抹消手続きをすることで、自身に抵当権を移動させる必要があります。
金融機関にローン完済を証明する書類を発行してもらい、法務局に提出して所定の手続きをすることで完了します。
まとめ
今回は、アパートローンの繰り上げ返済について、メリット・デメリットから検討する際に気をつけたいポイントについて解説しました。
アパートローンの繰り上げ返済が有効かどうかは、オーナー自身の自己資金の状況や今後の経営計画により異なります。
自身の状況を整理し、借り換えを含めた複数のシミュレーションをしてみることで、自身のアパート経営に最適な返済方法を知ることができるでしょう。
アパート経営についての全般的な情報は、「これが知りたかった⁉アパート経営で失敗しないための7つの極意」で解説しています。ぜひご覧ください。
フドウくん