不動産の売却や相続で、不動産を鑑定して正確な価値を知りたいと考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、不動産の鑑定はどこに依頼するのか、実際に鑑定する際の流れや費用など不動産鑑定の基礎知識をまとめました。
不動産鑑定を検討される方にとって参考になれば幸いです。
目次
不動産鑑定とは、不動産鑑定士が地域分析や個別分析などをし、その不動産の最も適用した鑑定評価手法で鑑定した内容に対し、専門的な判断を加味して、不動産鑑定評価額を決定することです。
1、不動産鑑定の概要
(1)不動産鑑定とは?
そもそも不動産鑑定とは、不動産鑑定士が地域分析や個別分析などをし、その不動産の最も適用した鑑定評価手法で鑑定した内容に対し、専門的な判断を加味して、不動産鑑定評価額を決定することを言います。
一般的には、個人による不動産の鑑定評価は以下の場合に使われています。
- 不動産の売買
- 不動産による財産分与
- 不動産の相続
- 不動産の贈与
- 固定資産税や相続税の算定時
主に、調停、裁判、税務申告といった公的手続きで必要になります。
(2)不動産の鑑定評価をすることができる者は?
不動産の鑑定評価ができるのは、「不動産鑑定士」という国家資格を取得した専門家のみとなります。
法律や国の定めた統一基準に基づいて不動産の価格を算出し、鑑定の内容について法的な責任を負うのが不動産鑑定士です。
①不動産鑑定士の業務
不動産鑑定士は以下のようなシーンで、公正中立の立場から不動産の評価を行います。
- 不動産の売買
- 相続税の算出
- 路線価の算出
- 不動産を証券化する際の資産評価
- M&A(会社売買)の資産価値の評価
鑑定した内容は「不動産鑑定評価書」という書面により提出されます。
不動産鑑定評価書は、相続などの際に裁判所や税務署に提出され証拠にも採用される重要な書面です。
②不動産鑑定士は弁護士や公認会計士より希少な難関資格
不動産鑑定士の人数は、2017年1月1日時点で全国に8,268人と公表されています。不動産鑑定士の人数は、全国に約3〜4万人いる弁護士や公認会計士より少ない数になります。
参照:国土交通省ー参考資料集
不動産鑑定士として国土交通省に登録できるのは、以下のいずれかに該当する場合です。
- 不動産鑑定士試験第三次試験に合格した者
- 不動産鑑定士試験に合格した者であって、実務修習を修了し国土交通大臣の確認を受けた者
- 不動産鑑定士試験第二次試験に合格した者であって、実務修習を修了し国土交通大臣の確認を受けた者
2、不動産鑑定評価の方式
不動産鑑定評価をする際、大きく以下の3つの鑑定方法が使われています。
- 取引事例比較法
- 収益還元法
- 原価法
では、それぞれについてみてみましょう。
(1)取引事例比較法
取引事例比較法とは、対象不動産と同じような条件の不動産の取引事例の価格と比較をしながら、他の取引事例の価格をベースに、
- 市場全体の動向
- 取引の時期
などを踏まえて調整を行った上で、対象不動産の査定価格を算出する方法です。
不動産の査定価格を算出するにあたり、最も基本的な査定方法として使われています。
(2)収益還元法
①収益還元法とは
収益還元法とは対象の不動産が将来生み出すだろうと予測される純利益と現在価値を総合(収益価格)し、査定価格を算出する方法です。
投資不動産の査定価格の算出において多く使われている方法です。
②収益評価の計算方法
収益価格を算出するには、以下の2つの方法があります。
- 直接還元法
- DCF法
では、それぞれについてみてみましょう。
ー 直接還元法 ー
直接還元法は、通常1年間における純利益を還元利回り(表面利回り)で割って、収益価格を求める方法です。
以下の計算式にて算出する事ができます。
「対象不動産の収益価格 = 1年間の純利益 ÷ 還元利回り」
例えば、以下の条件の物件の収益価格を計算してみましょう。
【物件情報】
家賃:180万円/年
諸経費:35万円/年
還元利回り:5%
収益価格 = (180万円 − 35万円)÷ 5% = 2,900万円
ー DCF法 ー
DCFは、「Discounted Cash Flow」の略で、以下の2つの価値の合計を求める方法です。
対象となる不動産が所有期間中に得られる純利益を現在価値へと換算したもの
所有期間終了時に売却できるであろう価格を現在価値に割り戻したもの
直接還元法より予測の精度は高いと言われていますが、計算が複雑になっています。
(3)原価法
①原価法とは
原価法とは、対象不動産を仮にもう一度建築した場合の原価を割り出したあとに、建築年数による低下した価値を原価修正し、現時点の価値を推定する方法です。
建物や一戸建ての査定価格を算出する際に使われている方法です。
②原価法の計算方法
原価法は以下の計算式にて算出する事ができます。
「対象不動産価格 = 再調達原価 − 減価修正」
建物の構造によって単価や法定耐用年数が異なりますが、例えば、以下の条件の建物の価格を算出してみましょう。
構造:木造
建築年数:11年
延べ床面積:200㎡
【計算】
15万円 × 200㎡ × (11÷22) = 1,500万円
原価法の計算方法について詳しくは「積算価格とは?積算価格の計算方法について」をご参照ください。
なお、不動産鑑定評価の方式について詳しくは「不動産の査定方法!知っておきたい3つの方法について」をご参照ください。
3、不動産鑑定価格形成に影響する要因
上記で紹介した不動産鑑定評価の方式で不動産鑑定評価をする際に、以下の3つの要因も考慮し、最終的に価格が算出されます。
- 一般的要因
- 地域要因
- 個別的要因
詳しくみてみましょう。
(1)一般的要因
一般的要因とは、一般経済社会における不動産のあり方及びその価格の水準に影響を与える要因のことを言います。
例えば、
- 対象不動産の地理の位置関係
- 建築様式等の状態
- 税負担の状態
- 土地及び建築物の構造、防災等に関する規制の状態
といった要因が挙げられます。
(2)地域要因
地域要因とは、その地域に属する不動産の価格の形成に全般的な影響を与える要因を言います。
大きく以下のような地域が挙げられます。
- 宅地地域
- 商業地域
- 工業地域
- 農地地域
- 林地地域
なお、地域転換された場合、転換前の地域の地域要因を重視し評価されます。
(3)個別的要因
個別的要因とは、その不動産に個別性が生じさせ、その価格を個別的に形成する要因を言います。
土地と建物で別々にみてみましょう。
①土地の場合
土地の場合は以下のような個別的要因が挙げられます。
- 地盤
- 接道状況
- 交通施設との距離
- 隣接不動産等周囲の状態
- 情報通信基盤の利用
- 埋蔵文化財の有無
- 土壌汚染の有無
②建物の場合
建物には以下のような個別的要因が挙げられます。
- 建築年数
- 面積、高さ、構造など
- 設計、設備などの機能性
- 耐震性
- 維持管理の状態
4、不動産鑑定の費用と流れ
この章では、実際に不動産鑑定をする場合の費用や流れについて解説します。
(1)不動産鑑定でかかる費用
不動産鑑定を不動産鑑定士に依頼する際にかかる費用は、10万〜数十万円が相場となります。
対象の不動産の規模や鑑定の目的、不動産鑑定事務所によって金額が異なりますので、申込み前によく確認しましょう。
(2)不動産鑑定の流れ
実際に不動産鑑定を依頼した場合、大きく以下のような流れとなります。
1、不動産鑑定士・不動産鑑定事務所に事前相談をする
2、不動産鑑定士・不動産鑑定事務所を選定する
3、不動産鑑定の申込みをする
4、調査
5、鑑定評価作業
6、不動産鑑定評価書を受け取る
では、順番にみていきましょう。
①不動産鑑定士・不動産鑑定事務所に事前相談をする
不動産鑑定を依頼する前に数社の不動産鑑定事務所に相談し、
- 鑑定の流れ
- 費用
などについて比較してみるといいでしょう。
初回は無料で相談してもらえる事務所が多いので、ぜひ利用してみてください。
なお、不動産鑑定事務所を探される際に、インターネットにて「不動産鑑定」などのキーワードにて検索する事が出来ます。
②不動産鑑定士・不動産鑑定事務所を選定する
不動産鑑定事務所を選ぶ際は、以下のようなポイントで選ぶことをおすすめします。
- 不動産鑑定の実務経験は豊富か
- お客様の状況によって適切な提案ができているか
- 聞く耳を持たずに不動産鑑定を薦めているか
- 不動産鑑定評価の報酬は妥当であるか
不動産鑑定士を探すことができるサイトをご紹介します。
③不動産鑑定の申込みをする
不動産鑑定事務所が決まったら委託契約を結び、正式に鑑定を依頼します。
④調査
対象不動産を現地調査し、法務局や市区町村などの官公庁にて対象の不動産に関する書類を徴収します。
⑤鑑定評価作業
資料が揃ったら、不動産鑑定をする目的に合せて、上記「不動産鑑定評価の方式」で紹介した鑑定方式を選定し、鑑定作業を行います。
大きな作業の流れは以下のようになっておりますので、参考にしてみてください。
出典:日本不動産研究所
⑥不動産鑑定評価書を受け取る
鑑定を行った不動産鑑定士から鑑定評価書の説明を受け、問題が無ければ不動産鑑定評価書を受け取ります。
5、不動産鑑定と不動産価格査定の違い
不動産鑑定と不動産価格査定には、以下のような違いがあります。
不動産鑑定 | 不動産価格査定 | |
評価基準 | 法律に基づいた鑑定 | 不動産会社独自の評価基準 |
目的(個人が利用する場合) | 売買、相続、財産分与 | 売却 |
公的証明 | 公的な証明になる | 公的な証明にならない |
費用 | 数十万円 | 無料 |
かかる期間 | 1ヵ月程度 | 当日~1週間程度 |
土地に関しては、国土交通省が毎年不動産鑑定士による鑑定を行っており、その結果を「全国地価マップ」で公表しています。
不動産価格査定は、不動産を売却する際、見積りを出す場合に用いるものです。
現在では、インターネットを用いて、一度の申し込みで複数の不動産会社に無料で査定依頼できるサイトを利用する方法が一般的になっています。
売却する際には、複数の不動産会社からの見積もりを比較検討することが高値売却につながるためです。
代表的な査定サイトをご紹介します。
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すまいValueは、不動産大手6社が共同で立ち上げた無料の不動産売却一括査定サイトです。
6社というと少ないように感じるかもしれませんが、このうちの3社は以下のとおり。
- 三井不動産リアリティネットワーク
- 住友不動産
- 東急リバブル
この3社だけで、業界における仲介件数がトップ3を占めているため、査定サイトの中では流通件数自体は最多です。
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土地に関しては、国土交通省が毎年不動産鑑定士による鑑定を行っており、その結果を「全国地価マップ」から調べることができますので、ぜひ利用してみてください。
不動産鑑定についてよくある質問
Q1、不動産鑑定とは?どのような場合に必要?
不動産鑑定とは、不動産鑑定士が地域分析や個別分析などをし、その不動産の最も適用した鑑定評価手法で鑑定した内容に対し、専門的な判断を加味して、不動産鑑定評価額を決定することを言います。
一般的には、不動産の鑑定評価は以下の場合に使われています。
- 不動産の売買
- 不動産の財産分与
- 不動産の相続
- 不動産の贈与
- 法人の会計処理
一般的な不動産売買というよりは、裁判や税務申告などの公的手続きをする際に必要になります。
Q2、不動産の鑑定方法は?
不動産鑑定評価をする際は、大きく以下の3つの鑑定方法が使われています。
- 取引事例比較法
- 収益還元法
- 原価法
さらに、一般的要因、地域要因、個別的要因も考慮し、最終的に価格が算出されます。
Q3、不動産鑑定と価格査定の違いは?
不動産鑑定は法律や国が定めた基準に則って不動産を評価するものですが、不動産価格査定は不動産会社(仲介業者等)が独自の評価基準で算出するものです。
不動産鑑定は国が定めた基準で行われるため不動産鑑定士ごとに鑑定内容が大きく異なることはありません。不動産鑑定により作成した「不動産鑑定評価書」は、裁判や税務申告など公的手続きに利用できます。
一方で不動産価格査定は、市場での売り出し価格を算出するものなので、不動産会社ごとに価格はまちまちで、査定結果に法的効力はありません。
まとめ
今回は、不動産の鑑定評価について解説してきました。
不動産を売却する場合は、不動産会社による価格査定で十分なケースがほとんどです。
しかし、相続や離婚時のように調停や裁判に発展する可能性のある売却で、正確な価値を知りたいケースでは、不動産鑑定が必要になるでしょう。