不動産投資の世界にたびたび登場する「DCF法」という言葉について疑問をお持ちですか?
収益物件の評価をするために用いられていることは多くの方がご存知ですが、「どういう考え方なのか」「どうやって計算するのか」「その結果をどう活かせば良いのか」といった疑問に答えられる方となると少なくなるのではないでしょうか。
そこで「不動産投資の教科書」では、収益物件をより正確に評価する手法としてDCF法について、
- DCF法の基礎知識
- DCF法の考え方
- DCF法の計算式
- DCF法による物件評価の実例
- DCF法による計算を簡単にしてくれるツール
などについて詳しく解説します。
不動産投資初心者の方にとってバイブル的存在となっている「不動産投資の教科書」が、この記事一本でDCF法のことが分かるよう構成しましたので、ぜひ最後までお読みください。
※こちらの記事は2017年9月20日に公開したものを2019年9月15日に加筆・修正しました
目次
1、不動産の価値を正確に算出できるDCF法
(1)DCF法とは?
不動産の価格を査定・評価するには、大きく分けて3つの方法があります。収益還元法、原価法、そして取引事例比較法です。詳しくは次項で解説しますが、収益還元法の中にも2つの方法があり、それぞれ直接還元法、DCF法と呼ばれています。
DCF法という言葉にあるDCFとは、「Discounted Cash Flow」の頭文字を並べたものです。直訳すると「値引きされたキャッシュフロー」という意味合いになりますが、この値引きが大きな意味を持っています。
不動産だけでなく株式などの資産を保有した後で売却した時点までも考慮に入れた評価方法として広く用いられており、不動産投資においては物件が持つ価値を未来におけるリスクも考慮に入れて算出することができます。
(2)主に3つある不動産の評価方法
不動産の評価方法として知られている3つの方法には、以下のものがあります。
①収益還元法
収益還元法の最大の特徴は、物件の将来における収益力から算出することです。この収益還元法の中にはさらに「直接還元法」と、この記事で詳しく解説する「DCF法」の分類があります。
どちらも将来の収益力に着目している点では共通しているので、収益物件の評価方法として広く用いられています。
②原価法
その物件と全く同じものを建てるとどれだけの費用なるか?という「再調達原価」に着目した評価方法です。コストを元にしたシンプルな考え方なので分かりやすいというメリットがありますが、その一方で不動産投資の対象となりやすい市街地では新規に建てる物件の事例が少なく、再調達価格を知る手段がない場合に使えないというデメリットがあります。
③取引事例比較法
近隣にある類似物件の取引価格を参考に、評価したい物件の特徴などを考慮して算出する方法です。上記の原価法では市街地に使いづらいという特徴がありますが、この取引事例比較法ではむしろ市街地のほうが取引事例が多く適用しやすいというメリットがあります。
一般的に住居物件の評価をする際によく用いられています。
(3)なぜ「DCF法」があるのか
DCF法に限らず、こうした不動産を査定・評価する方法が確立されていることには大きな理由があります。
投資家が物件価格の相場を正しく知って「高値掴み」をしてしまわないようにする物差しとしての役割も重要なのですが、特にDCF法の場合は金融機関が融資審査の際に使用することに存在意義があります。
なぜなら、金融機関が融資の審査をするのにあたって一番知りたいのは「収益不動産が将来にわたって期待通りの収益をもたらすか」どうかです。
DCF法は将来における収益予測を織り込んだ物件評価が可能なので、金融機関の融資が付いたということは、DCF法による不動産評価によって「将来の期待収益も含めて妥当な価格」であると見て良いでしょう。
(4)不動産初心者がDCF法をマスターする必要はありません
これを言ってしまうと身も蓋もないかも知れませんが、個人の不動産投資家、とりわけ不動産投資の初心者の方がDCF法による不動産評価方法をマスターしておく必要はありません。
なぜならDCF法による評価は不動産鑑定士などの専門家が用いる手法であり、一般の不動産投資家が知らなくても不利になることはないからです。
仮にDCF法をマスターとして不動産の評価ができるようになったとしても、その物差しだけで優良物件に出会えるとは限らないのが不動産投資の世界なので、DCF法という不動産評価方法が存在していて、DCF法がどんな考え方に基づいて計算されているか、それに加えて計算方法を理解しておくだけで充分だと思います。
もっとも、「より精緻な収益計算をしたい」という方もいらっしゃるでしょう。そうであればこちらの書籍を読むことをオススメします。
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2、DCF法で不動産の価格を算出する方法
(1)DCF法の考え方
DCF法が重視しているのは、時間価値の考慮です。同額の資産があったとして、それが今あるのと未来にあるのとでは実質的な価値が異なる点にDCF法は着目しています。
例えば、100万円の現金があるとします。これを今持っているのと1年後に持っているのとでは「1年分の利息」という分だけ現在の100万円のほうが高い価値を持っています。1年後に同額の100万円を得たとしても、その100万円にはこの1年間に運用で得られるリターンという時間価値がないからです。
不動産投資は物件を複数年で所有するケースが大半なので、1年ごとに時間価値を計算して、それを積算する必要があります。
これをイメージ図にすると、以下のようになります。
緑色の部分が不動産の実質的な価値です。1年目より2年目、2年目よりも3年目という具合に実質的な価値が下がっていくのは、時間が進むほど現在価値との差が広がるからです。最終的な売却時(この場合だと5年後)には5年分の時間価値が考慮されるので、その分の割引をする必要があります。
(2)DCF法の計算式
前項で解説したDCF法の考え方を計算式にすると、このようになります。
年間の収益 ÷ (1+割引率)のn乗 ・・・ + 売却価格 ÷ (1+割引率)の5乗 = 不動産の収益価格
次に、前項のイメージ図を計算式にすると、以下のようになります。
(1年目)年間の収益 ÷ (1+割引率)の1乗
(2年目)年間の収益 ÷ (1+割引率)の2乗
(3年目)年間の収益 ÷ (1+割引率)の3乗
(4年目)年間の収益 ÷ (1+割引率)の4乗
(5年目)年間の収益 ÷ (1+割引率)の5乗
これをすべて足したものに、
売却価格 ÷ (1+割引率)の5乗
を足すことで5年後の収益を求めることができます。
この金額と収益物件の価格に大きな差異がなければ、期待収益と比べて妥当な価格設定であると判断できます。
(3)割引率を設定する方法
DCF法では時間価値の分だけ将来に受け取る収入の価値を割り引いて計算します。この割引の根拠になるのが、割引率です。この数値については同じ金額のお金を他のものに投資をしたら得られていたであろう期待収益率と同じにする設定が望ましいでしょう。
いわゆる安全資産として定期預金や国債などで比較すると1%を大幅に下回る数値になるため、空室など一定のリスクテイクをしている不動産投資との比較には不適格です。
不動産投資と同程度のリスク&リターンである投資商品を比較するのが妥当なので、投資信託や優良株の配当利回りなどが比較対象として妥当でしょう。そうした投資商品の金利水準は3~5%であると仮定して、数%規模で設定するのが良いでしょう。
3、DCF法で不動産の価格を計算してみよう
(1)一棟アパート投資を5年間行った場合
DCF法を使って、一棟アパート物件の実質的な収益額を計算してみたいと思います。
想定条件は、以下の通りです。
アパートの戸数 | 6戸 |
年間の家賃収入 | 5万円×6戸×12ヶ月=360万円 |
空室率 | 15% |
投資期間 | 5年間 |
割引率 | 3% |
物件売却価格 | 3,000万円 |
管理コストなどを考慮していませんが、この一棟アパートに対する5年間の家賃収入は空室率も考慮して、
360万円 × 5年 × 85% = 1,530万円
という計算結果になりました。
しかし、この金額は時間価値が考慮されていないので、DCF法に基づいて5年間の収入をそれぞれ割り引いていきます。
毎年の家賃収入は空室率15%を差し引いて、306万円とします。2年目以降の割引率は前年の割引結果から3%割り引くことによって割引率を算出しています。
1年目 | 306万円 × 97% = 296万8,200円 |
2年目 | 306万円 × 94.09% = 287万9,154円 |
3年目 | 306万円 × 91.26% = 279万2,556円 |
4年目 | 306万円 × 88.52% = 270万8,712円 |
5年目 | 306万円 × 85.86% = 262万7,316円 |
売却時 | 3.000万円 × 85.86% = 2,575万8,000円 |
これらをすべて合計すると、「3,973万3,938円」という結果になりました。
これが、DCF法によって時間価値も考慮された当該一棟アパートの5年間投資の収益総額です。
(2)区分マンション投資を5年間行った場合
先ほどの一棟アパートに続いて、区分マンションでもDCF法による収益総額の計算をしてみましょう。
この区分マンションの想定条件は、以下の通りとしました。
年間の家賃収入 | 10万円 ×12ヶ月=120万円 |
空室率 | 15% |
投資期間 | 5年間 |
割引率 | 3% |
物件売却価格 | 2,000万円 |
この区分マンション物件の5年間の家賃収入総額は、
120万円 × 5年 × 85% = 510万円
という計算結果になります。
それでは、この区分マンションが持つ価値を5年間の収益総額からDCF法で算出してみましょう。1年間の家賃収入は空室率15%を考慮して102万円とします。
1年目 | 102万円 × 97% = 98万9,400円 |
2年目 | 102万円 × 94.09% = 95万9,718円 |
3年目 | 102万円 × 91.26% = 93万852円 |
4年目 | 102万円 × 88.52% = 90万2,904円 |
5年目 | 102万円 × 85.86% = 87万5,772円 |
売却時 | 2,000万円 × 85.86% = 1,717万2,000円 |
1年目から5年目までの家賃収入と売却価格の2,000万円にそれぞれ時間価値を考慮すると、合計は「2,183万8,314円」という結果になりました。
DCF法を用いた計算により、この区分マンション物件を購入して5年間の投資をした時の期待収益が判明しました。
4、複雑なDCF法の計算を楽にしてくれるツール3選
(1)DCF法の計算式
とてもシンプルな収益シミュレーションツールです。年間の家賃収入をはじめ、その他の「年支出」「投資額」「残存価値」「投資期間」「投資収益率」「投資変動率」を入力することで一発でDCF法によるシミュレーション結果を見ることができます。
とても簡単なので、遊び感覚でやってみても面白いと思います。
最速資産運用「DCF法の計算式」
(2)不動産投資DCF法レバレッジ方程式(無料版)
エクセルを使ってDCF法による不動産物件の評価ができるツールです。無料版ですが、かなり細かい分析が可能です。
不動産投資DCF法レバレッジ方程式(無料版)
(3)REIFA
前項でご紹介したエクセルを使ったDCF法計算ツールの無料版に対し、こちらはその有料版です。家賃収入と売却時の価格を高精度に予測できる定番のソフトです。
14日間の無料試用版もあるので、まずはそちらから試してみてください。
REIFA
まとめ
より正確な不動産物件の評価が可能になるDCF法ですが、それゆえに計算式は複雑に感じやすいものです。実はそれほど複雑でもないことをお伝えするために、一棟アパートと区分マンションという不動産投資にありがちな物件を想定した計算事例もご紹介しました。
実際に不動産投資家がDCF法を使って投資判断をするという場面はそれほどないと思いますが、金融機関で用いられている評価方法を知っておくことは有益です。
不動産投資を成功に導くために、DCF法を含む数字に強い投資家を目指しましょう。