アパートの建て替え、どうしよう……。
築年数が経過したアパートをお持ちであれば、建て替えをお考えになったことがあるかもしれません。
この記事では、
- アパートを建て替えるべきタイミングはいつか
- 建て替えで必要になる費用と相場
- アパートを建て替える際の注意点
などについて、基本の情報をまとめています。
アパート建て替えを検討する際のご参考になれば幸いです。
目次
1、アパート建て替えを判断するタイミング
築年数が経過し、老朽化したアパートのすべてが「建て替えするべき」という訳ではありません。
本章では、建て替えを検討するべき具体的なタイミングについてみていきましょう。
(1)空室が増えている
「建物が老朽化し設備が古くなってしまった」「周辺に新しいアパートができた」など様々な理由で空室が増え、しかも次の入居者がなかなか決まらない長期空室が複数ある場合は、建て替えを検討するべきタイミングかもしれません。
しかし、建て替えにあたっては、現状の入居者に立ち退いてもらうための費用(立ち退き料)が必要になります。
空室が5割を超えるようであれば、管理を見直し、建て替えを検討し始めましょう。
空室が8割程度の状態で立ち退き交渉を始めるのがベストです。
(2)大規模な修繕が必要になった
築年数が経過しているアパートで大規模な修繕が必要になり、高額の費用がかかるような場合、建て替えを検討するべきタイミングかもしれません。
修繕費用は「追加投資」になるので、投資金額を回収するのにどのくらいの期間が必要か考えてみましょう。
家賃アップに繋がる修繕の場合でシミュレーションしてみます。
修繕費用60万円
修繕後の家賃アップ金額5千円=年間6万円
単純計算で、投資金額の回収に10年かかることになります。
すでに築年数が経過しているアパートでは、この10年の間にさらに修繕費用が必要になることも考えられます。
立て続けに高額の修繕が必要になった場合、建て替えを検討し始めましょう。
(3)築年数30年以上
建物及び建物附属設備には、構造別に法定耐用年数が定められています。
<建物>
構造 | 耐用年数 |
---|---|
木造 | 22年 |
鉄骨造 骨格材の厚み3mm以下 | 19年 |
鉄骨造 骨格材の厚み3mmを超え4mm以下 | 27年 |
鉄骨造 骨格材の厚み4mm以上 | 34年 |
鉄骨鉄筋コンクリート造 鉄筋コンクリート造 | 47年 |
<建物附属設備>
用途 | 耐用年数 |
---|---|
蓄電池電源設備 | 6年 |
その他 電気設備(照明設備を含む。) | 15年 |
給排水・衛生設備、ガス設備 | 15年 |
これは課税のために定められたものであるため、実際の建物の耐用年数とは異なります。
実際の木造または鉄骨造のアパートは、一般的には築20年くらいから大規模な修繕が必要になる箇所が生じ、築30年以上なら建て替えを検討するタイミングであるとされています。
アパートは、構造上部屋ごとのリノベーションが難しい建物です。
もし水回りの配管など重要な部分で故障が起きた場合、多額の工事費用や一時退去費用がかかることも考えられます。
そのような事態にならないためにも、築30年以上経過していれば、建て替えを検討し始めましょう。
2、アパート建て替えにかかる費用と相場
アパート建て替えをする際には、大きく分けて3種類の費用がかかります。
1つずつ詳しくみていきましょう。
(1)立ち退き費用
建て替えなど、家主の都合で立ち退きが必要になった場合、立ち退き料が必要になります。
借地借家法第28条に定められています。
(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
財産上の給付(=立ち退き料の支払い)をすれば家主から賃貸借契約の解約を申し出ることができるということになります。
立ち退き料は、賃借人が引越しにあたり必要になる諸費用の補填とお考えください。
- 引越し費用(引っ越し代、保険、分解取付調整、住所変更で必要な費用)
- 引越し先を探すための費用(不動産会社への仲介手数料、敷金の差額、礼金)
- 引越しすることで増加する賃料等の差額
これらを合計した立ち退き費用の相場は、
家賃×6ヶ月分
といわれています。
立ち退き費用をできるだけ抑えるためには、できるだけ入居者が少ない状態で建て替え工事に着手することが重要です。
建て替えを決めた後に、賃貸借契約の更新時期を迎える入居者もいるでしょう。その場合、普通建物賃貸借契約のまま更新してしまうと、上記の法律で定められた立ち退き料を支払わなければ契約を解約できません。
そこで、定期建物賃貸借契約への切り替えを交渉しましょう。
定期建物賃貸借契約(定借)とは、更新がない賃貸借契約です。契約期間満了後の更新はなく、契約は終了します。
また、借地借家法28条は、普通建物賃貸借契約についての条文であるため、定期建物賃貸借契約には適用されません。
建て替えを視野に入れたアパート経営をするのであれば、普通建物賃貸借契約での更新はしないことがポイントです。
(2)建物解体費用
建物の解体費用は、構造などによって異なりますが、概ね以下の通りです。
構造 | 費用の相場(延べ床面積1坪あたり) |
木造 | 坪4万~5万円 |
鉄骨造 | 坪6万~7万円 |
鉄骨鉄筋コンクリート造 | 坪7万~10万円 |
これらの金額はあくまで目安です。
建物が密集する地域であったり、隣接する土地が駐車場で養生が必要な場合など、条件によって費用が増加することもあります。
(3)建物新築費用
建物の新築費用は、構造などによって異なりますが、概ね以下の通りです。
構造 | 費用の相場(延べ床面積1坪あたり) |
木造(2~3階建) | 57万円/坪 |
鉄骨造(2~4階建) | 83万円/坪 |
鉄骨鉄筋コンクリート造 (主にマンション) | 86万円/坪 |
地域別・構造別の工事費用表(1m2当たり)【令和3年分用】|国税庁(全国平均をもとに算出)より
まずアパート所在地の現行の容積率(延べ床面積÷敷地面積×100)を確認し、1坪=3.306m2として計算してみましょう。
金額はあくまで目安です。
建物が密集する地域であったり、接する道路が狭くて施工に時間がかかるような場合は、費用が増加することもあります。
アパート建築費用について詳しくは、こちらの記事をご覧ください:アパート建築費用の目安は?利回り計算から建築会社の選び方まで紹介
3、アパート建て替えの流れ
アパートを建て替える流れは図の通りです。
まずはアパート建て替え後のシミュレーションを精査し、建て替えにあたり必要になる費用について資金計画が必要になります。
解体・新築工事の期間は読みやすいのですが、立ち退き交渉は相手次第といえるので時間がかかることの想定も必要です。
入居者が少ないようであれば数ヶ月で完了しますが、交渉が難航し裁判などになった場合は年単位で時間がかかってしまいます。
建て替え後のシミュレーションを十分に行い、十分な収益性を確認してから立ち退き交渉を進めましょう。
4、アパート建て替えのメリット・デメリット
次に、アパート建て替えのメリット・デメリットについてみていきましょう。
メリット(1)キャッシュフロー改善
法定耐用年数を超えた古いアパートは、家賃を下げなければいけない上に、税務申告の際に減価償却費を計上することができず、キャッシュフローが悪化している状態です。
建て替えることで新築アパートになるため家賃アップが見込め、さらに減価償却費も計上できるようになります。
メリット(2)相続税を減税できる
アパートを建て替える際、アパートローンなど借入をすることがほとんどでしょう。
借入金はマイナスの相続資産になるため、相続資産全体の相続税評価額が減り、減税されることになります。
また、アパートがある土地(貸家建付地)の相続税評価額算出においては入居率(賃貸割合)も考慮されるので、賃貸中の部屋が多いほど評価額が減額され、減税効果があります。
メリット(3)支出の削減
新築することで、リフォームや修繕などの支出を削減することができます。
また、新築物件は入居者が見つけやすくなるため、入居者募集のための費用も削減できます。
デメリット(1)立ち退き交渉が必要
建て替えるアパートの稼働率が高い状態である程、立ち退き交渉に時間や費用がかかります。
借地借家法は賃借人の保護に重点を置いているため、立ち退き交渉では賃借人側が有利です。
以上のことを踏まえた上で、立ち退き交渉を行いましょう。
デメリット(2)多額の資金が必要
建て替えの工事では、多額の資金が必要になります。
多くの場合、アパートローンなど借入金でまかなうことになります。
建て替え後の収支シミュレーションを十分検証し、無理のない資金計画を立てましょう。
5、アパート建て替え資金計画の注意点
アパート建て替えには多額の費用が必要であるため、ローンをはじめとする資金計画は重要なポイントになります。
アパート建築でローンを利用する場合、
- 年齢制限
- 返済期間
- 融資限度額および金利
について理解しておきましょう。
(1)ローンの年齢制限に注意
「アパートローン」といわれているローンであれば、満20歳以上であれば借入することができます。
自己居住用の「住宅ローン」や区分マンション投資でも利用できる「不動産投資ローン」は借入時や完済時の年齢に制限があり、高齢だと借入することができません。
しかしアパートローンは入居者からの家賃を返済に充てる前提であるため、借入するアパートオーナーの年齢に上限は設定されていません。
ただし、アパートローンでは加入が任意である団体信用生命保険(団信)に加入したいという場合は、年齢制限があります。(加入時=借入時の年齢が70歳未満、など)
(2)ローンの最長返済期間に注意
建物の法定耐用年数を限度としています。
<建物の法定耐用年数>
構造 | 耐用年数 |
---|---|
木造 | 22年 |
鉄骨造 骨格材の厚み3mm以下 | 19年 |
鉄骨造 骨格材の厚み3mmを超え4mm以下 | 27年 |
鉄骨造 骨格材の厚み4mm以上 | 34年 |
鉄骨鉄筋コンクリート造 鉄筋コンクリート造 | 47年 |
(3)融資限度額や金利の相場は?
アパートローンの融資限度額や金利は、金融機関により異なります。
融資限度額は、概ね担保評価額の70%程度・5億円までとなります。
金利は1~5%で、アパート経営の実績があれば低い金利で借入しやすいでしょう。
アパートローンでは加入が任意である団体信用生命保険(団信)に加入する場合、保険料は金利に上乗せされます。(+0.3%程度)
付保額は1億円以内です。1億円を超える分も団信加入を希望する場合、ワイド団信の利用も可能ですが、さらに金利が上乗せされることに注意しましょう。
6、アパートを建て替えしない場合の選択肢
これまでの項目をお読みいただき「建て替えない」と判断した場合、安定した資産運用を行うにはどうすれば良いのでしょうか?
選択肢は大きく分けて3つです。それぞれ見ていきましょう。
(1)管理を見直す
空室の増加にお悩みであれば、賃貸管理会社を変えることを検討してみましょう。
築古、駅距離ありのアパート管理を「得意分野」とする収益物件管理の専門会社をご紹介します。
(2)活用方法を見直す
一昔前までは土地活用といえばアパート経営や駐車場に限られていましたが、最近ではトランクルーム、レンタルスペース、コインランドリーなど様々な土地活用方法があります。
所有する土地に最も適した活用プランを無料で比較できるサイトをご紹介します。
(3)売却する
資産を整理したいとお考えであれば、売却することも検討してください。
今いくらで売れるのか無料で査定を依頼できるサイトをご紹介します。
アパート建て替えについてのQ&A まとめ
アパートの建て替えを考えるべきタイミングは?
築30年以上が経過していて、大規模な修繕が必要になったり、半分以上空室の期間が続くようであれば建て替えを検討するべきタイミングです。
アパート建て替えにかかる費用は?
建て替えでは、
- 立ち退き費用(家賃の6ヶ月分〜)
- 建物解体費用(建物の構造や立地により異なる)
- 建物新築費用(建物の構造や立地により異なる)
がかかります。
アパート建て替えのメリット・デメリットとは?
メリットは、
- キャッシュフロー改善
- 相続税対策になる
- 修繕費などの経費削減
デメリットは、立ち退き費用や建築費用など多額の資金が必要になることです。
おわりに 安定したアパート経営のために
安定したアパート経営のためには、長期スパンでの収支を把握しなければなりません。
また相続について考えることも必要です。
せっかくの資産をより有利に運用するために、様々な可能性を検討しアパート経営の利益を最大化してください。
フドウくん