「不動産価値の調べ方は…?」
「自分でも調べられるの…?」
不動産投資を始めようと検討中の方は、一度は考えることではないでしょうか?
不動産投資では、購入後の空室対策や修繕計画など運営を行うための知識、収益の確定させるための出口戦略を学ぶことがとても大切です。
また、投資する不動産の価値を見抜くことも、不動産投資をするにあたって非常に重要なポイントです。
投資する不動産が市場よりも高すぎたり、築年劣化による価値の下落が著しいものであったりすると、どんなに運営上の対策をしても、投資金額の回収が難しくなってしまうからです。
今回は、
- 不動産とは
- 机上調査で所有者や規制を確かめる
- 現地調査で立地・建物を確かめよう
- 真の市場価値が分かる取引事例比較法
- 収益から価格を割り出す収益還元法
など、不動産の価値をどのように見抜き、価値の査定を行うかを、不動産評価の専門家である不動産鑑定士が解説します。(田井能久・不動産鑑定士、ロングステイアドバイザー、タイ・バリュエーション・サービシーズ代表取締役)
目次
1、不動産価値の調べ方を知る前に~不動産とは
本章では、まず「不動産とは何か」という極めて基本的な知識を解説します。
不動産は、種類が豊富にあるため「中古アパートがもうかる」「新築区分所有の店舗に将来性がある」など、さまざまな情報が飛び交っています。
しかし、そうした言葉に惑わされず、不動産の特性を理解し、自分の好みを見極め、自身の不動産投資に対する投資スタイルを確立するのが重要です。
(1)そもそも不動産とは何か?
まずは「不動産」について知っておくべき2つのことを説明します。
①不動産は土地と建物だけではない
「不動産に投資をしている」というと、その不動産はアパートやワンルームマンションなどをイメージすることが多いでしょう。
しかし、不動産とは本来、民法上で「土地とその定着物等」と定義されています(民法86条)。
一般的な建物以外にも、ホテルやゴルフ場やスキー場、ソーラーパネルでさえ、不動産のカテゴリーに入るのです。
マンションやアパートに限らず、自分の興味があり、情報を収集しやすいジャンルを選んで投資ができる多様性があります。
②不動産投資の対象はさまざま
現在、実物不動産を買う場合には、不動産オーナーとしての専門性が必要とされています。
これは「中古アパート専門」や「駅から3分以内の新築マンション専門」など、投資をする人が、各々で自分の好みや投資スタイルを確立する必要性が高いということを意味します。
多数の中から選別するのは難しいのですが、「選択と集中」が、投資を行う上での第一歩になるのです。
(2)不動産と他の資産との違い
では、不動産は、他の資産と比べた場合に、どんな違いがあるのでしょう。
本項では、3つの特徴を説明します。
①不動産は“動かないが動くもの”
不動産が他の資産と圧倒的に違う点は、お金や貴金属などと異なり、物理的に動かすことができない点です。
「自分が購入した土地の隣に高層マンションが建ち、日当たりが悪くなったので土地の場所を変える」ことや、「転勤になったので、家そのものを動かす」ことは不可能なのです。
一方で、大きすぎる土地を分割して小さくしたり、小さい土地をまとめてマンション用地にしたりすることで、土地の価値を上げることができます。
自分で土地を使わない場合は、賃貸借契約を締結して収益を上げることも可能です。
物理的な場所は動きませんが、大きさや利用する権利は自由に変える形で動かすことができるため、やり方次第で価値が上がったり、下がったりするのです。
②立地が価格に大きく影響
不動産は物理的に動かないため、社会環境を含んだ不動産が存在する場所である「立地」の選び方が大事です。
ここでいう「社会環境」とは、お隣さんなどの相隣関係や町内会の人間関係といった小さなレベルから、地震や水害などの危険性といった市や県といった自治体、国家の経済状態や制度という範囲までを含みます。
習慣や過去の災害発生の程度がよくわからない地域や、今後の経済成長や制度の情報入手が難しい国に投資をすることは、非常にリスクが高くなるのです。
③インフレなど経済の影響を受ける
不動産は、インフレなどの経済状態や金利動向などの金融市場などに影響を受けて価値が決まります。
例えば、 低金利政策が続けば、不動産投資への融資が増加し、アパート建築が盛んになります。
ただし、その影響は一律ではなく、商業地と住宅地に与える影響は違いますし、都心と地方でも大きく異なります。
このように、地域や不動産の特性ごとで細分化しているのが最近の特徴です。
2、不動産価値の調べ方①机上調査で所有者や規制を確かめる
実際に現地を確認して、不動産を見極めることは必須です。
しかし、会社勤めの人などは、平日に時間は取りにくいでしょう。
限られた時間で効率よく物件を探すためには、「机上調査」という資料や書類などを自宅で確認する作業が重要です。
「机上調査」とは、「書類審査」ともいえるもので、調査をすることで現地に行く前に投資に適している物件かを判断できます。
本章では、「机上調査」で大切な権利と法律の規制に関する調査のポイントを解説します。
(1)権利は登記簿で調べる
まずは権利の調査について説明していきましょう。
①所有者を確認する「甲区」とは?
不動産は、特性上、さまざまな権利の付着ができます。そのため、利用者=所有者と断言はできません。
まずは、何よりも不動産の所有者を知る必要があります。
ご自身の最寄りの法務局で請求すれば誰でも入手できる、登記事項証明書(不動産登記簿謄本)で、不動産の所有者を確認できます。
登記簿は「甲区」と「乙区」で構成されており、所有者を確認するには、甲区を確認しましょう。
甲区の項目の「権利者その他の事項」に、売買や相続などの原因とともに、所有者が記載してあります。
甲区を確認し、本当に現在の所有者として正しいのかを確認します。
最近は、相続が発生しているのに、相続人が登記していないケースも増えています。30年以上も所有者が変わっていない物件などは、注意しましょう。
②「乙区」も参考になる
乙区とは、所有権以外の権利に関する事項が記載されている箇所です。
区分地上権や地役権など直接不動産の利用に制限がかかるもの以外に、担保の対象かが分かる抵当権も記載されます。
万が一、その不動産に抵当権があったからといって、売買が阻害されることはありませんので、ご安心ください。
現在の所有者が、売買金額から残っている債務を弁済すれば、新しい所有者には不利益を被らないのです。
ただし、乙区の債権者が、頻繁に取引会社が変わっていたり抵当権の設定頻度が多かったりするケースもあります。
このような不動産オーナーは、お金に関して少々ルーズな場合が多かったり、物件の維持管理もルーズだったりする傾向があるといえるでしょう。
③地面師問題
数年前、本人に成りすまし、他人の土地を勝手に売ってお金をだまし取る「地面師」と呼ばれる詐欺集団が話題になりました。
驚くべきは、だまされた人が不動産の知識がない素人ではなく、一流企業に勤める不動産の専門家だったことです。
理由があるとは思いますが、「不動産売買における所有者の確認」という基本の重要さを改めて思い知らされた事件でした。
みなさんが投資家として活動する際にも、地面師問題のようなトラブルに巻き込まれる可能性があることも十分に認識しておく必要があります。
(2)机上調査で確認すべき法律とは
机上調査で、大切なポイントの2つ目は「公法上の規制」で、簡単にいうと「法律」や「規制」を調べることです。
不動産は法律上の制約を受けるとともに、規制は年々変わることが多いので、注意が必要です。
本項では、特に着目すべき法律や規制を説明します。
①都市計画法と建築基準法
不動産の利用を規制する法律は、非常に多く存在します。
すべての法律を確認するのは、法律に詳しくない方にとっては至難の業なので、まずは、「都市計画法」と「建築基準法」を、チェックしましょう。
都市計画法では、建物の用途に関して制限する「用途地域」を、必ず調べましょう。
「用途地域」は、以下のような点の重要な判断材料になります。
- 「更地であるなら何が建てられるのか」という点
- 「もし今、建物があっても建て替えなどで同じ建物が建てられるのか」という点
一方、建築期基準法は、安心で安全に建物を建てることを目的に、最低限度の品質を保持するために決められている法律です。
建物の敷地に関する規制や、建物そのものの構造や仕様を規制しています。
すべてを理解するのは難しいのですが、「敷地の接道義務」と「建ぺい率」や「容積率」といったことは知っておくべきでしょう。
②地域による規制
不動産で、さらに複雑なのは、前述した法律という全国的な規制に加えて、県や市などの小さな行政単位で、条例や指導要綱などの細かい規制が作られていることです。
例えば、東京と地方では条例などは異なるため、建物にかかる規制も違ってきます。
京都などの歴史がある街は、重要な文化財を残すために街並みの規制が厳しく、建物の立体利用にも制限がかかっています。
それぞれの地域の特性に合わせた条例があることをあらかじめ知っておき、注意を払いましょう。
3、不動産価値の調べ方②現地調査で立地・建物を確かめよう
「机上調査」という書類審査が終わった物件を、“面接する”ために「現地調査」をする必要があります。
不動産投資では、“見ないで買った”という成功例が語られることがあります。
しかし、現地調査をしなかったことで失敗した例が、成功例以上にあるのも事実ですので、現地調査は必ず行く必要があります。
本章では、「現地調査」の際に特に外せないポイントを解説します。
(1)まずは立地条件を3項目でチェック
まずは「立地」です。「不動産は立地で決まる」とよくいわれます。
立地、「利便性」「安全性」「将来性」の3つの条件からなると見ているため、現地調査では、最低でもこの3つをチェックすべきでしょう。
では、具体的には何を調べればよいのでしょうか。解説していきます。
①利便性
不動産の利便性とは、「住むことで得られる時間的や経済的メリット」です。
一般的には、「駅への近さ」や「商業施設などの充実度とその位置関係」などが挙げられます。
一般に駅までの距離は「1分=80m」で計算され、地図上で400mならば5分と記載されます。
一方で、「駅の入り口が物件から見て反対側にある」「駅までが坂道で5分では着かない」などの地理的な問題があれば、本当に5分かは実際に歩いてみないと分かりません。
地図上では気が付かないことを、住人目線で歩いて調べることが重要です。
また、周辺地域の住人が求める施設は、入居者のタイプでニーズが変わります。
単身者向けの物件は、深夜まで営業するスーパーやコンビニが利便施設として人気が高いです。
ファミリー向けの物件は、子供を預ける保育園や公園の近さ、高齢者向けならば病院などの医療施設の近さが重要視されます。
このように、「利便性」は、その地域に住む人たちによって変わるものであることに注意する必要があります。
現地調査では、投資する物件のタイプを確認し、住むであろう人を想定し、その人が必要とする施設やアクセスを確認することが重要です。
②安全性
安全性については、自治体の役所などに備えてある「ハザードマップ」という資料を使って、水害や土砂災害の危険性などを調べられます。
具体的には、「川が氾濫した場合、どのくらいまで浸水する可能性があるか」「土砂災害危険区域に入っていないか」など、周りの状態をよく見て、安全性を現地で確認します。
安全性は、犯罪についても調べる必要があります。
各都道府県警察が、過去にどんな種類の犯罪が起きたのかをまとめた「犯罪マップ」というデータがあります。
「犯罪マップ」を確認したうえで、地元の不動産業者などにヒアリング調査を行いましょう。
犯罪が起こりやすい地域は、同じような犯罪が繰り返される傾向があります。
知らずに不動産投資をした結果、入居者の部屋に何度も空き巣が入ったりして入居が安定しないこともありえます。
③将来性
「市街化調整区域から外れる」「新しい道路や駅ができる」「大きな工場が誘致される」などのうわさ話を根拠に、不動産投資を決断する人がいます。
うわさ話を疑わず信じてしまうことは、失敗の原因になりかねませんので、うわさの根拠を、自分で調査する必要があります。
例えば、道路を作るには、まず用地買収が進んでいないといけません。
工場の建設であれば、計画用地が整地されていなければいけません。
すべての机上のデータは、いくら最新でも過去のものであるため、現地の将来は現地でなければ分からないのです。
(2)「個別的要因」は必ず調べる
次が「個別的要因」の調査です。
個別的要因とは、個別の物件のことをいいます。
立地調査は、「地域調査」といえるでしょう。
不動産の最終的な価値は、物件個々の敷地や建物の状態で決まりますので、個別的要因は必ず調べる必要があります。
個別的要因を調べる際は、以下の2つのポイントをおさえましょう。
①土地と建物
土地であれば間口や奥行き、道路との接面状態を調査し、建物なら階層や外観の状態をチェックします。
机上調査で気に入った土地の形だと思っても、現地では形状や大きさが異なっていることが多々あるからです。
建物などは、そもそも図面がないとか、改修前の状態で現状と全く違うのに、不動産では「現状有姿」で売買されることが多くあります。
特に、中古物件では図面上に記載されない瑕疵(かし)や欠陥があると、多額の修繕費がかかり、賃貸物件として活用できないこともありえます。
図面を過信しないで、自分の目で確かめることが大切です。
②現地調査
土地については、隣接地との境界杭を確認し、また土地がどのように使われたかの地歴を聞いて、土壌汚染の可能性に気を付ける必要があります。
建物は、日当たりの状態や景色、風通しや騒音の状態を十分に確認をしてください。
一方で、収納やバスやトイレ、ガスコンロやクロスのデザインなどの内装には、ついつい目を奪われがちですが、内装は、自身の希望で換えることができます。
現地では、自分の意志や希望では換えることができないものを、しっかり見るようにしましょう。
4、不動産価値の調べ方③真の市場価値が分かる取引事例比較法
現地調査も行い、よさそうだと思った投資物件を高値で買ってしまうと、投資としては“うまみ”がありません。
そうならないために、物件の価格が市場価値と乖離(かいり)していないかをチェックする必要があります。
代表的なチェック方法に、「取引事例比較法」と「収益還元法」があります。
本章では、そのうちの「取引事例比較法」を説明します。
(1)取引事例比較法とは
取引事例比較法とは、成約した取引事例や売り希望の事例と求めたい投資物件の立地条件や建物の状態などを比較して、不動産の市場価値をチェックする方法です。
不動産の市場価値は「相場がこのくらいだから、不動産の価値はこのくらい」と判断されることが多いと思います。
しかし、取引事例比較法を使って具体的な事例を調査し、比較すれば、より精度の高い価格を推定できます。
①取引事例比較法に適している物件は?
取引事例比較法は、比較しやすい事例が入手しやすく、比較内容がシンプルであることが重要なので、建物の個性が強い商業ビルよりも戸建分譲の方が向いています。
マンション投資であれば、1棟よりも1戸の方が価値判断がしやすくなります。
事例を収集しやすいという意味では、取引が活発な東京などの大都市が、事例が少ない地域よりも適用しやすいといえるでしょう。
マンション1戸でも、200平方メートルを超えるような、めったに見ることのない特殊なマンションよりも、市場に多く流通する物件の方が適していると考えられます。
具体的には、80平方メートルのファミリー向けや25平方メートルのワンルームなどです。
②事例の集め方と選び方
不動産鑑定士や宅建業者は、実際の成約事例を収集できます。
しかし、一般の人が査定する場合は、個人所有の仲介物件よりも業者が売主の物件に着目するとよいでしょう。
個人所有だと、ローン残高との関係で売買価格が決定されていたり、家に対する思い入れが強いことから割安で売ることはなるべく避けていたりして、長い期間市場に滞留している物件もあるからです。
一方、業者が売主であれば売れ残ってしまうことを避けて、妥当な値段で売ることが多いため、現在の市場性を反映した価格の可能性が高くなります。
収集方法は、基本的にはインターネットを使って物件の販売サイトなどで調べます。
自分が買いたいエリアの新聞チラシをこまめに集めたり、フリーペーパーに目を通したりするなどのアナログな作業も、並行して行うことで、物件を選別する目を養うことができるでしょう。
③比較の方法は?
投資マンションを例に挙げると、
- 駅やスーパーといった施設からの距離
- 住環境
- 最寄り駅
- 建物の構造
- 築年数
- 部屋の設備や面積
などを比較します。
例えば、駅から「徒歩5分」と「徒歩20分」では、15分という「時間の差」というよりも、駅からかかる時間が徒歩なのか、バスなのか、自転車なのかといった「交通手段の差」に着目しましょう。
面積についても、20平方メートルと80平方メートルでは、入居者の需要が全く異なります。
他にも、サラリーマンなのか、学生なのか、独身なのか、ファミリーなのかといった自分が想定している入居者が求める広さと差が少ないものを選ぶ必要があります。
もちろん、比較する物件の選択は大事なのですが、少ない事例から判断するのでなく、多くの事例を参照することが大切です。
例えば、同じ最寄り駅に事例がない場合でも、同じ路線で同じような乗降客数などの駅から事例を見つけるなどしてみると良いでしょう。
立地や設備に注意しながらも、多数の代替性の高いものを選んでいくと、比較すべきものが明確になり、価格を推定できます。
(2)取引事例比較法を利用した物件比較の実践例
ここまで説明してきた注意点を踏まえて、実際に取引事例比較法を実践してみましょう。
【査定例】
例えば、Aというワンルームマンションが、2019年に2500万円(25平方メートルなので100万円/平方メートル)で売買され、Bというワンルームマンションが2018年に2800万円(30平方メートルなので93万3333円/平方メートル)で売買された事例が入手できたとします。
投資したいマンションの面積が26平方メートルで、立地条件に差はないが、Aのマンションの方が5%(125万円分)ほど設備がよく、Bのマンションより2019年現在は3%ほど価格が上昇していると仮定します。これらの条件で査定すると、以下のような計算になります。
A:100万円/平方メートル×100/100(時点修正)×100/100(立地補正)×100/105(建物補正)=95万2381円/平方メートル
B:93万3333円/平方メートル×103/100(時点修正)×100/100(立地補正)×100/100(建物補正)=96万1333円/平方メートル
AとB、2つの事例の平均値から投資したいマンションの単価は「95万6857円/平方メートル」と計算されます。
ここから、総額は95万6857円/平方メートル×26平方メートル=2490万円と計算できます。
現実の査定では、このような条件がほぼ一致する物件の事例を収集するのが難しく、比較もこれほど単純ではありません。
しかし、多くの事例を収集し、自分なりのポイントを設けながら一物件ずつ比較する作業は、不動産を選ぶ目を養い、自分にとって納得できる投資のモノサシを持つことにつながります。
ぜひ挑戦してみてください。
5、不動産価値の調べ方④収益から価格を割り出す収益還元法
前章では、成約した取引事例や売り希望の事例などから、投資物件の価値を求める「取引事例比較法」を解説しました。
本章では、不動産の利益面から価値を求める「収益還元法」について紹介します。
(1)収益還元法とは
「収益還元法」は、「その投資不動産がどのくらいの収益を生み出すか?」という点に着目して市場価値を求める方法です。
具体的には、
- 「家賃」という形で生み出される収益
- 収益を獲得するための費用
- 収益が将来的にどのくらい永続性があるのか
について予測し、計算します。
①収益還元法に適している物件は?
「収益還元法」は、家賃や売り上げなど、不動産が生み出す価値を金銭化しやすい物件に適しています。
賃貸マンションなどには向いていますが、個人住宅や別荘など、賃貸することを前提としていない建物などは、その価値に見合う賃料の想定が難しいので適用は厳しいといえます。
永続性も判断するものであるので、誰が見ても建物の耐用年数が完全に経過した物件なども適用には向いていません。
②純収益・利回りの求め方
収益還元法は、収益を利回りで割って価格を算出します。計算式は、以下です。
V(価値)=I(収益)÷R(利回り) |
ここでいう「収益」とは、家賃収入や家賃以外に付随して得られる駐車場収入や自動販売機の設置料など、不動産関連から得られる全ての収入である「総収益」から、全ての費用の「総費用」を控除した「純収益」で考えます。
一般的には、総収益しか考慮しない「粗利」のみを採用し、対応する「粗利回り」で計算して求めた価格も収益価格として知られています。
しかし、物件ごとの空室リスクや管理費、修繕費などを考慮して求めた純収益の方が、その不動産の本当の収益性を反映するので、正しい価格を把握できるのです。
利回りは、その不動産の収益が継続する期間と考えることができます。
例えば、50年続くならば「×50」と計算するので、その逆数である2%で割る(÷0.02)ことで同じ結果が得られます。
しかし、50年はやや長いので、一般的には15〜20年続くことを想定し、5〜6%ぐらいを還元利回りの標準と考えればよいでしょう。
③査定の方法
総収益は、不動産関連から得られる全ての収入と説明しました。
しかし、正確には「満室想定」で得られる収益から、一定の空室リスクを考慮する必要があります。
例えば、投資しようとする不動産が10室あり、そのうち3室が年間2カ月ぐらいは空きになることが経験的に分かっていれば、全体の30%が12分の2の確率で空室となります。
したがって、30%×2/12=5%を計上します。
空室を費用項目で計上する場合もありますが、ここでは収益からの控除項目とします。
費用は、
- 定期的に支出される維持管理費
- 固定資産税などの税金
- 保険料
などを計上します。
新築などの場合は、修繕が毎期で必要ではないので、その費用の計上を忘れてしまうこともあります。
例えば、10年に1度ぐらい水回りの修繕に50万円が必要になると想定し、そのコストを平準化して、年間5万円を計上しておくようにします。
ただ、減価償却費は会計上で計算はしますが、実際の現金で出ていくものでないので計上する必要はありません。
建物の状態や地域性を考慮して、収益が続く程度を5〜6%を基準に「収益が逓増(ていぞう)すると考えるなら、還元利回りは小さな数字を見積もります。
一方、「収益は逓減(ていげん)する」と考えるなら還元利回りは大きな数字を採用します。
(2)収益還元法の実践例
では、実際にワンルームマンションを例として、収益還元法を実践してみましょう。
【査定例】
家賃が10万円で、年間5%の空室が見込まれるワンルームマンションがあったとして、その総収益は以下のように計算できます。
10万円×12カ月×95%=114万円
このマンションの賃貸に必要な費用が年間30万円とすると、純収益は以下のように算出されます。
114万円-30万円=84万円
「84万円」という純収益が、安定的に20年間続くと想定できると仮定し、標準的な利回りの「5%」で還元すると、以下の計算で、このマンションの価値が求められます。
84万円÷0.05=1680万円
計算をした結果、このマンションの収益価格は「1680万円」と算出されました。
一般的に、投資する段階では、計算例のような空室率や年間費用が分かっていないので、実際に純収益を算定するのはなかなか大変でしょう。
しかし、想定を行うことで、空室の改善や経費の削減などを考えて、どのくらい不動産の価値向上に寄与するかが分かるので、不動産経営の感覚を磨くことに非常に役立ちます。
まとめ
今回は、不動産価値の調べ方について解説いたしました。
いかがでしたでしょうか。
たくさんの現地調査を行ったり、日頃からの情報収集を行ったりを意識的にしていくと良いでしょう。
取引事例比較法は、不動産の事例を選び比較することで、不動産の価値を見抜く目を養うことができる方法です。
収益還元法は、空室率や費用を分析して、その将来性を予想するスキルを磨くことができるものといえるでしょう。
2つを併用すれば、より精度の高い不動産価格を求めることが可能になり、投資の成功に導いてくれると思います。
それぞれの考え方や方法をぜひ実践して、不動産の価値を見抜くために役立ててもらえれば幸いです。
不動産価値を把握できたら、実際に購入する前に、不動産投資に精通したプロのアドバイスを受けることもおすすめします。
「収益用不動産セカンド・オピニオンサービス」は、当ウェブメディア・『不動産投資の教科書』が提供する不動産投資家向けのサービスです。
不動産会社ではない、私たちだからこそできる中立公正な立場で、最適なアドバイスを行います。
不動産価値を含めて、不動産投資全般に関する不安や疑問(借入金額・購入時の自己資金割合・複数保有の場合のメリットやリスクなど)がある場合には、ぜひ「収益用不動産セカンド・オピニオンサービス」を活用ください。
不動産価値の高い物件を選択できれば、売却時にも利益を得られます。
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