不動産投資では、購入後の空室対策や修繕計画など運営を行うための知識、収益の確定させるための出口戦略を学ぶことがとても大切です。また、それと同じくらい、投資する不動産が価値を見抜くことも重要です。
なぜなら、投資する不動産が市場よりも高すぎたり、築年劣化による価値の下落が著しいものであったりすると、どんなに運営上の対策をしても、投資金額の回収が難しくなってしまうからです。
そこで、不動産の価値をどのように見抜き、価値の査定を行うかを、不動産評価の専門家である不動産鑑定士が5回にわたって解説します。第1回は「不動産とは何か」についてです。(田井能久・不動産鑑定士、ロングステイアドバイザー、タイ・バリュエーション・サービシーズ代表取締役)
目次
・そもそも不動産とは何か?
まずは「不動産」について知っておくべき2つのことを説明します。
(1)不動産は土地と建物だけではない
「不動産に投資をしている」というと、その不動産はアパートやワンルームマンションなどをイメージすることが多いでしょう。しかし、不動産とは本来、民法上で「土地とその定着物等」と定義されています。そのため、一般的な建物以外のホテルやゴルフ場やスキー場、そしてソーラーパネルさえ不動産のカテゴリーに入るのです。
このように不動産にはさまざまな種類があります。だから、マンションやアパートに限らず、自分の興味があり、情報を収集しやすいジャンルを選んで投資ができる多様性があります。
(2)不動産投資の対象はさまざま
現在は、実物不動産を買う場合には不動産オーナーとしての専門性が必要とされています。これは「中古アパート専門」や「駅から3分以内の新築マンション専門」など、投資をする人のおのおのが自分の好みや投資スタイルを確立する必要が生じていることを意味します。多数の中から選別するのは難しいのですが、その「選択と集中」が、投資を行う上での第一歩になるのです。
・不動産と他の資産との違い
では、不動産は、他の資産と比べた場合に、どんな違いがあるのでしょう。3つの特徴を説明します。
(1)不動産は“動かないが動くもの”
他の資産と圧倒的に違うのは、お金や貴金属などと異なり、物理的に動かすことができない点です。自分が購入した土地の隣に高層マンションが建ち、日当たりが悪くなったので土地の場所を変える、転勤になったので家そのものを動かすといったことは不可能なのです。
一方で、大きすぎる土地を分割して小さくする、小さい土地をまとめてマンション用地として使うことで、土地の価値を上げることができます。自分で土地を使わない場合は、賃貸借契約を締結して収益を上げることも可能です。
このように、物理的な場所は動きませんが、大きさや利用する権利は自由に変える形で動かすことができるため、やり方次第で価値が上がったり、下がったりするのです。
(2)立地が価格に大きく影響
不動産は物理的に動かないため、社会環境を含んだ不動産が存在する場所である「立地」の選び方が大事です。
ここでいう「社会環境」とは、お隣さんなどの相隣関係や町内会の人間関係といった小さなレベルから、地震や水害などの危険性といった市や県といった自治体、国家の経済状態や制度という範囲までを含みます。そして、習慣や過去の災害発生の程度がよくわからない地域や、今後の経済成長や制度の情報入手が難しい国に投資をすることは、非常にリスクが高くなるのです。
(3)インフレなど経済の影響を受ける
不動産は、インフレなどの経済状態や金利動向などの金融市場などに影響を受けて価値が決まります。そして、最近は特に敏感に影響を受けるようになっています。
例えば。低金利政策が続けば、不動産投資への融資が増加し、アパート建築が盛んになります。ただし、その影響は一律ではないのです。商業地と住宅地に与える影響は違いますし、都心と地方でも大きく異なります。このように、地域や不動産の特性ごとで細分化しているのが最近の特徴です。
・自分の投資スタイルを確立することが重要
今回は、まず「不動産とは何か」という極めて基本的な知識を解説しました。不動産は、その種類が豊富にあるため「中古アパートがもうかる」「新築区分所有の店舗に将来性がある」など、さまざまな情報が飛び交っています。しかし、そうした言葉に惑わされず、不動産の特性を理解し、自分の好みを見極め、自身の不動産投資に対する投資スタイルを確立するのが重要なのです。
次回からは不動産価値を調べる具体的な方法を話していきます。最初は投資物件を自宅などで調べる「机上調査の進め方」を説明します。
【自分でできる不動産価値の調べ方】シリーズ
・第2回 机上調査で所有者や規制を確かめる
・第3回 現地調査で立地・建物を確かめよう
・第4回 真の市場価値が分かる取引事例比較法とは
・第5回 収益から価格を割り出す収益還元法