不動産売買における手付金について詳しくご存知でしょうか?
手付金が用意できなければ、不動産を購入したくてもできない可能性がありますし、売却する方であれば手付金の重要性について理解しておくべきです。
そこで本記事では、
- 不動産売買の手付金の相場はいくら?
- 不動産売買の手付金を受け取る(支払う)タイミング
- 手付金について契約書でチェックすべきポイント
- 手付金の支払後、売主が解約したい時はどうすればよいのか
- 手付金の支払後、買主が解約したい時はどうすればよいのか
- 手付金以外の残代金はいつ受け取れる?
などについてまとめています。
なお本記事では、不動産を購入したい方・不動産を売却したい方のどちらでもご覧いただける内容をまとめました。
これから不動産の売買を検討されていて、手付金について詳しく知っておきたい方のご参考になれば幸いです。
目次
1、不動産売買の手付金とは
不動産売買における手付金とは、そもそもどんなお金のことでしょうか。
(1)そもそも手付金とは
手付金とは、売買契約を締結する時に買主が「この不動産を買います!」という証拠金として、売主に支払うお金のことを言います。「内金」と呼ばれることもあります。
購入するための意思確認のようなものと考えてもよいでしょう。
(2)売買契約で手付金が生じる理由
物件を購入するにあたって、買主は売買契約から物件の引渡しまでの間に、住宅ローンの申請や審査など様々なステップを経る必要があります。
そのため、売主は一回で全部の代金を支払ってもらえるわけではありません。
契約成立の証拠金として契約締結する時に手付金を代金の一部として一旦預けて、決済時にその金額を差し引いた残りの代金(残余金)を支払うことが一般的です。
また、手付金を支払った後に売主や買主が契約を破棄した場合、手付金がそのまま違約金にもなります。
このように、売買契約における手付金は重要な役割をしているのです。
(3)3つの手付金について
不動産の売買における手付金には以下の3つの種類があります。契約時に特に手付金の種類を決めていない場合、一般的には手付金は以下の「①解約手付」とされます。
①解約手付
解約手付とは、「売買契約履行に着手するまで」という条件付きで売主も買主も契約を解除できるという性質を持つ手付金のことを言います。
その際、一般的に売主と買主は以下の条件を満たすと契約の解約が可能となります。
- 売主は手付金の倍返し(証約手付が100万円の場合、200万円を買主に支払う)
- 買主は手付金放棄(証約手付が100万円の場合、100万円を放棄する)
②証約手付
証約手付とは、契約が成立したことを示すために渡される手付金のことです。
上記「(1)そもそも手付金とは」にて書いた契約締結時に買主が売主に支払う手付金のことを指します。
③違約手付
違約手付とは、言葉の通りに契約上の約束を守らず、債務不履行によって相手に損害を与えた場合、ペナルティとして没収される手付金のことを言います。
(4)手付金と申込証拠金との違いは?
申込証拠金とは、「この物件を購入する意思」がある意思表示をするため、売買契約書を締結する前に売主にお支払いするお金のことです。
申込証拠金の金額は、一般的には物件価格に関係なく
- 5〜10万円
が目安になっています。「2、手付金の相場はいくら?」で記載している通り解約手付金の相場は不動産の代金の10%なので、申込証拠金は手付金と比較してかなり安く設定されています。
買主が売主に申込証拠金を払うことで、冷やかしではないという証拠とすることができます。
無事契約が成立した場合、手付金の一部に充当されることが多いため、手付金の一部とも捉えられるでしょう。万が一契約が成立しなかった時は、手付金のようにペナルティは課せず、全額返還されます。
なお、トラブルにならないよう申込証拠金の預り証に
- 万が一契約が成立しなかった場合、全額返還すること
- 申込証拠金の有効期間
などの文言がきちんと入ってるか確認するようにしましょう。もし入ってなければ記載してもらうようにしましょう。
2、不動産売買の手付金の相場はいくら?
手付金を払う買主、もしくは手付金を受け取る売主、どちらの状況においても手付金がいくらなのか気になるところでしょう。
(1)手付金は不動産売却(購入)額の約10%程
手付金は買主が家を購入する意思があるということを示す内金です。
買主にも売主にも簡単に契約を解除されないよう、一般的には手付金の金額は、売却(購入)する不動産の代金の約10%程度が不動産業界の実務上の相場とされています。
売主であれば、売却したい不動産の相場がいくらなのかを未だ知らない方もいるのではないでしょうか。
(2)10%程の手付金であれば契約破棄はされにくい
戸建ての不動産売却額の相場は、築年数や建物・土地面積次第ではありますが、首都圏で2,000万〜4,000万円はします。
200万〜400万の手付金を払えば買主はそう簡単に契約破棄はしませんし、売主はこのさらに倍の額を払うことになります。
契約破棄を避けるためにも、不動産売却額の約10%という手付金の相場にも納得がいくのではないでしょうか。
3、不動産売買の手付金を受け取る(支払う)タイミング
ここでは不動産売買で手付金が支払われるタイミングについて理解しましょう。
まずは、不動産売却と不動産購入の流れを大まかに捉え、その上で両者が手付金を受け取るタイミングや支払うタイミングについて説明します。
(1)不動産売却の流れ
不動産売却の主な流れは以下のようになります。
- 一括査定サイトを利用して売却物件の相場を把握する
- 売却対象物件に関する資料を準備する
- 不動産会社に対象物件に対する訪問査定をしてもらう
- 信頼できる不動産会社を選定し、売却に伴う媒介契約を締結する
- 売り出し価格を決定し、実際に売却活動を開始する
- 購入希望者(買主)と物件価格など購入条件について交渉する
- 売買契約を締結する
- 決済し、物件を引き渡す
なお、効率よくスムーズに家を売却する時の流れについて、詳しくは「不動産売却の流れ|引き渡しまでの6つのステップと売却にかかる期間」を参考にしてみて下さい。
(2)不動産購入の流れ
不動産購入の流れは以下のようになります。
- 希望条件や予算を整理し、物件を探す
- 探した物件の内見をする
- 資金計画を立てる
- 物件購入の申し込みをする
- 売買契約を締結する
- 住宅ローンを契約する
- 物件の引き渡しを受ける
(3)不動産売買における手付金のタイミング
上記の、不動産売却と購入の流れを踏まえ、手付金が生じるタイミングについて把握しましょう。基本、手付金は売買契約を締結するタイミングで買主から売主に支払われます。
すなわち、売主にとっては上記の”7.売買契約を締結する”のタイミング、買主にとっては”5.売買契約を締結する”のタイミングです。
原則契約を締結するのと同時でないと手付金にならないので、タイミングについて注意しておきましょう。
4、不動産売買では少額の手付金交渉に注意!
不動産の売主は、買主から少額の手付金交渉をされることがあるので注意しましょう。
具体的には、「絶対に買うけれど、まとまったお金がないために手付金の金額を相場よりも安めにして欲しい」という交渉です。
「売買代金が変わるわけではないからまぁいいか・・・」と安易に手付金の減額交渉に応じてしまう売主の方もいらっしゃいますが、これはおすすめできません。
解約手付金の金額が安くなると買主は解約しやすくなるので、「もっと良い物件が見つかったから契約を解除したい」と簡単に契約を解約されることもできます。
売主は契約を簡単に解約されないよう、安易な減額交渉に応じてはいけません。手付金の金額や契約解除可能な期日についてはこのことを踏まえて慎重に決めましょう。
逆に買主の方であれば、手付金を用意できない場合は、売主が交渉に応じないことも考えられるため、入念な資金計画が必要です。
5、手付金について契約書でチェックすべきポイントとは?
手付金の金額や、解約した場合の手付解除についての取り決めが売買契約書に明記されています。お金に関する取り決めなので、損しないよう契約書の内容をきちんとチェックしておきましょう。
(1)手付金の金額
上記「2、手付金の相場はいくら?」にも書きましたように、手付金の金額は、購入する不動産の代金の約10%、もしくは100万円程度が不動産業界の実務上の相場になっています。
なお、不動産業者が売主の場合、手付金の金額を「売買代金の20%まで」と取り決めることもあります。
(2)手付解除について
契約を締結したあとに、買主もしくは売主の都合により解約することも考えられます。それに備えて解約した時の手付金の扱いについて記載されるのは「手付解除」です。
手付解除について
- 解約手付金の条件が妥当なのか
- 手付解除可能な期間
などを確認するようにしましょう。
なお、当事者同士の同意があれば
- 手付解除を認めない
という特約を決めることもできます。
(3)売主が買主に契約破棄払えないためににすべきこと
売主側としては買主に手付金を放棄され、売却が白紙になれば、まだ売却活動を一からやり直ししなければならなくなり、その労力は計り知れません。
そこで、買主に簡単に解約されないよう事前の対策として以下を行いましょう。
- 手付解除行使できる期間を「契約後○日」と明記する
- 手付金の金額を高めに設定する
6、手付金の支払い後、売主が解約したい時はどうすればよいのか
不動産の売買契約を締結すれば、基本的には簡単に解約はできません。
しかし、状況によっては
「もっと良い条件で買ってくれる人が見つかった」
などと、売主が解約したいケースが出てくる可能性もあります。このように、一方の都合による解約を申し出た場合、条件をクリアしていれば、契約の解約が可能となります。
具体的には以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」に
- 手付金の倍額を買主に支払う
以下、それぞれについて詳しく説明していきます。
(1)「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」とは?
民法557条第1項により、
「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」
が解約のタイムリミットと決められています。
「履行の着手」とは、具体的には
- 売主が売却のため「抵当権抹消」の手続きを完了している
- 売主が引渡しのためリフォームを始めた
- 買主が銀行融資の仮審査を申請した
など、物件の売却もしくは購入のために本格的に動き始めたタイミングのことをいいます。このタイミングを過ぎると手付解約は難しくなります。
(2)手付金の倍額を買主に支払う
さらに、
- 買主に手付金の倍返し(手付金が100万円の場合、「200万円」を買主に支払う)
することで解約が可能となります。
もし、「もっと良い条件で物件を購入してくれる方が見つかった」という理由で解約をする場合は、手付金の倍の金額を買主に支払ってまで利益が大きくなるのかを計算しましょう。
7、手付金の支払後、買主が解約したい時はどうすればよいのか
一方、買主より解約するケースもあるでしょう。具体的には
「もっと良い物件が見つかったからどうしてもそちらと契約したい」
というケースです。買主は以下の条件を満たすと解約が可能となります。
- 「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」に
- 手付金を放棄する(手付金を売主に支払ったままにして返金してもらわなくていいとする)
(1)「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」とは
「6—(1)「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」にとは?」で記載した通りです。
(2)手付金を放棄する
さらに、
・手付金を放棄する(手付金が100万円の場合、そのまま放棄する)
という条件で契約を解除するが可能です。
(3)「住宅ローン特約」により解約する場合
以上は「買主自身の都合による解約」の場合です。
場合によっては住宅ローンの審査が通らずそもそも売買契約を進めることが難しい場合(解約せざるを得ない場合)もあります。
そのような場合のため、一般的に不動産の売買契約には「住宅ローン特約」が設けられています。
ここでは「住宅ローン特約」について説明していきます。
①「住宅ローン特約」とは
「住宅ローン特約」とは、買主に責任がないことを前提に、万が一住宅ローンの本審査が通らず、融資できなかった場合に例外的に手付金を放棄せずに契約を解約できるとするものです。買主を守る特約です。
②「住宅ローン特約」について売主が注意すべき事項とは?
住宅ローンの審査では、買主の
- 年収
- 勤め先の状況(資本金、規模、売上など)
- 勤続年数
- 返済能力
- 借金状況
など様々な条件から審査されます。
融資がおりると本人は思っていても、家族の隠れた借金や過去の借金返済遅延(クレジットやローン)などの経歴があれば、融資審査に落ちてしまうこともあります。また、仮審査で審査が通過していたのにもかかわらず、本審査で落ちてしまったケースもあります。
このような場合に買主がノーリスク(解約手付金を放棄せず)で契約を解約できるのが「住宅ローン特約」です。
先ほどお伝えした通り、「住宅ローン特約」は買主を守るもので、売主には不利なものとなります。
なぜなら、「住宅ローン特約」により解約された場合、売主は一から売却活動をやり直ししなければならなくなるからです。
そうならないためには、契約締結する前に買主は
- 無理な融資枠を申請していないか
- 仮審査が通っているか
などについて、事前に可能な限り確認しておきましょう。
また、仮に買主が住宅ローンの審査に落ちてしまった場合に備え、手付金を新居の費用などに回さず、決済が完了するまできちんと全額保管しておくと良いでしょう。
8、手付金以外の残代金はいつ受け取れるのか
次は売却の残代金(売却金額から手付金を差し引いたもの)はいつ受け取れるのかについて説明していきます。
買主の視点で言えば、手付金以外の額をいつ支払うのかです。
(1)残代金はいつ受け取れる?
売却代金から売買締結時に受け取った手付金を差し引いた残代金は、決済の時にもらえます。
買主は、この決算のタイミングで残代金を支払います。
もし、売主に住宅ローンが残っている場合は、買主から残代金をもらい住宅ローンの残りの支払いに充てます。完済が確認でき次第に司法書士により物件に設定されている抵当権を抹消する手続きをしてもらいます。
売主の抵当権抹消の手続きを完了したあとに、新しく買主側の住宅ローンの抵当権が設定され、登記をすれば無事に売却が完了となります。
(2)残代金として受け取れる金額は?
上記にて、不動産の売却価格から手付金を差し引いた金額が残代金だと書きましたが、不動産売却をするには
- 不動産会社に支払う「仲介手数料」
- 金融機関に支払う「一括繰り上げ返済手数料」
- 印紙税などの税金
などの諸経費がかかります。
従って、売主が受け取れる正確は残代金は
「残代金=不動産売却価格−手付金−諸経費」
となります。
不動産売却する際にかかる諸経費について詳しくは「不動産売却でかかる4つの費用|売却利益を最大化させる方法」をご参考下さい。
まとめ
今回は、不動産売買における手付金の仕組みなどについて書きましたが、いかがでしたでしょうか。
売主は、売買契約が締結され、買主から手付金が支払われると安心してしまう方が多いのですが、住宅ローンの審査がおりなかったなど決済するまではまだまだ安心できません。
簡単に解約されないように手付金の金額設定や解約できる期間設定は慎重に決めることが大切です。また、万が一契約が途中で解約されるリスクを備え、手付金をもらってもすぐに使わないようにすることも注意しましょう。