まもなく相続が発生する見込みのある方にとって、「自分は相続税の課税対象なのか」というのはとても気がかりな問題です。
相続税には基礎控除があるため、その金額を超えない場合は相続税の申告義務はありませんが、相続税の課税強化の流れもあって基礎控除が引き下げられた経緯があります。
「そうなると自分も課税対象になるのでは?」とお感じになる方も多いことでしょう。
果たして自分は基礎控除の範囲内なのか?という疑問を解決するためには、相続税の仕組みや基礎控除の計算方法を知っておく必要があります。
そこで「不動産投資の教科書」では、相続税の基礎控除について知っておくべき知識と、ご自身が課税対象なのかどうかを判定するための計算方法を解説します。
相続税が非課税になるのが理想的な結果だと思いますので、できるだけ基礎控除内に収まるよう課税対象額から差し引けるものも網羅していきます。もし基礎控除内に収まらないとしても、可能な限り課税対象額を少なくして節税ができるようにしていきたいと思います。
以下の記事も参考にしていただけたら幸いです。
目次
1、相続財産があっても相続税が課税されないことがある
相続財産があったら無条件に全員が相続税の対象になるというわけではありません。その分かれ目になるのが、基礎控除です。
(1)相続財産がある人=相続税の課税対象ではありません
遺産相続があると、高い税率の相続税がかかることはよく知られています。
「金持ち三代続かず」という言葉は何不自由なく育ったお金持ちの子女に親が築いた財産は守れないという意味の言葉ですが、同時に日本の相続税が高いことを揶揄する時にも用いられています。毎回相続税を納税していると、3代目には財産がなくなっているというわけです。
これが本当かどうかは別として日本の相続税は税率が高いので、資産がある人は相続税の対策を強く意識します。
しかし、相続財産がある人のすべてが相続税の課税対象になるわけではありません。一定額以上の人のみ課税対象になる仕組みになっており、その分かれ目となるのが基礎控除です。基礎控除より相続財産が少なければ、そもそも相続税とは無関係です。
(2)しかし、相続税の基礎控除は引き下げられている
相続税の基礎控除範囲内であれば、無傷で遺産を相続することができます。このため、基礎控除内に入るかどうかは相続をする人にとって大きな問題です。
2014年までは相続税の基礎控除が「5,000万円+1,000万円×相続人」だったのですが、2015年からは「3,000万円+600万円×相続人」となっています。これによって改正前であれば基礎控除内に収まっていた人が、改正後は収まらなくなる可能性が出てくるわけです。
財政が苦しい国にとって、相続税はお金持ちから取る税金だという位置づけなので課税強化をしやすい税金の1つです。資産が何億円もある人であれば「金持ち課税」になるかも知れませんが、この基礎控除のギリギリのところにいる人にとっては死活問題です。
(3)相続税の課税対象かギリギリの人が増えている
基礎控除が引き下げられたことによって、相続税の基礎控除に収まるかどうかギリギリのところにいる人は明らかに増えました。資産規模が多くなればなるほどそのゾーンの人口は少なくなりますが、それを引き下げることによって人口の多いゾーンに基礎控除が下がってきたからです。
きわどいところにいるからこそ、事前にしっかりと情報収集をして来るべき相続に備えておきたいところです。
2、相続税の基礎控除に関する5つの基本的知識
相続税の基礎控除とは何か?という用語の意味から、基礎控除額の計算方法など5つの基本を解説します。
(1)基礎控除とは相続税が非課税となる金額範囲のこと
相続税の基礎控除とは、「その金額までなら相続税が課税されない遺産の金額」のことです。
冒頭で遺産相続のすべてが課税対象になるわけではないと述べましたが、遺産が基礎控除額を超えていなければ相続税とは無縁になります。税率が高いことで知られる相続税だけに、基礎控除の範囲に収まるかどうかは相続に関わりのある人にとってとても大きな問題です。
しかも、遺産の規模が数千万円クラスで、基礎控除を超えるかどうか微妙なラインにある方にとってはより切実な問題で、
- 「自分は課税対象なのか」
- 「どうにかして基礎控除内に収まるようにしたい」
とお考えになるのは無理のないことです。
(2)相続税の基礎控除の計算式
相続税の基礎控除を計算するには、以下の式を用います。とてもシンプルな計算式です。
3,000万円 + 相続人 × 600万円 = 基礎控除額
例えば、夫婦と子供が2人の家庭で夫が亡くなったとします。この場合の基礎控除額は、
3,000万円 + 600万円 × 3 = 4,800万円
となります。
相続人が多くなるほど基礎控除額が大きくなることが、この計算式からお分かりいただけると思います。
それでは、ここでいう相続人とはどういう人のことを言うのでしょうか。相続人となる人には、優先順位別に3つのグループがあります。
ここに配偶者は登場しませんが、「配偶者+第〇順位」という形になるため、配偶者がいる場合はその配偶者と以下に記載するグループの人たちが法定相続人となります。
第1順位 | 直系の子供、孫 |
第2順位 | 父、母、祖父、祖母 |
第3順位 | 兄弟、姉妹 |
これらのグループは順位別に該当する人がいなければ次の順位グループの人が法定相続人になります。
例えば、亡くなった人に子供や孫がいなければ、第2順位である父母や祖父母が繰り上げされて法定相続人となるといった具合です。第3順位の人は、第1順位と第2順位それぞれの人がいない場合にのみ、法定相続人となります。
この要領で、法定相続人が何人いるかを数えます。その人数によって基礎控除額が決まります。
(3)相続財産によって金額の評価が異なる
相続財産には、さまざまな内訳があります。現金や有価証券、土地、建物といった具合です。これら資産の種類が異なると、それぞれの資産の評価額が異なります。相続税は評価額を課税根拠とするので、相続財産が何なのかによって相続税額が変わってきますし、基礎控除に収まるかどうかの判断にも影響を及ぼします。
特に不動産は独自の計算方法で評価をするため、こちらについては「3、相続財産額を評価する方法」で詳しく解説します。
(4)基礎控除を超えなければ相続税の申告は不要
ここまで何度か述べているように、遺産額が基礎控除を超えていなければ課税対象ではないため、申告も不要です。
しかしその逆に、基礎控除額を超える場合は申告と納税が必要になります。基礎控除を超えた分が課税対象となるので、もし遺産の評価額が1億円だったとして妻と子供2人に相続するとなった場合は、
1億円 - (3,000万円 + 600万円 × 3) = 5,200万円
ということになり、5,200万円分に対して相続税を納税することになります。
(5)基礎控除以外にも控除できる項目がある
基礎控除は無条件に遺産額から差し引くことができる控除ですが、それ以外にも控除できる項目があります。控除できるものはすべて控除しておくことで基礎控除内に収まるかも知れませんし、仮に相続税が発生しても税額を抑えることができるため、控除できる項目も忘れずにチェックしておきたいところです。
基礎控除以外の控除については、「4、要チェック!相続財産を減額できる項目」で詳しく解説します。
3、相続財産額を評価する方法
相続税課税の根拠となる相続税額は、資産の種類によって異なると述べました。ここでは、それぞれの資産をどう評価するのかを解説します。
(1)現金
現金ははっきりと金額が分かる資産であり、流動性が高い資産なので、そのまま100%で評価されます。遺産に1億円の現金が含まれているのであれば、その1億円はそのまま1億円と評価されます。
(2)株式など有価証券
株式など価格が変動する有価証券は、相続が発生した日の終値(休日であれば直近の取引日の終値)に所有している株数など口数を掛けて算出します。
(3)不動産
不動産を相続する場合、土地と建物を分けて計算します。
①土地の評価額を算出する方法
土地の価値は、国税庁が定めている路線価を根拠として、その路線価に対して8割程度が評価額となります。国税庁が最新の路線価をネットで発表しているので、それを見ることで路線価を知ることができます。そこで相続財産に該当する路線価を調べて、その金額に80%を掛けるとおおよその評価額が分かります。
- 路線価図・評価倍率表(国税庁)
②建物の評価額を算出する方法
建物についてはもう少し評価額が下がり、固定資産税評価額を基準にして5割から6割程度の評価額となります。相続税の基礎控除に収まるかどうかの計算では、建物の建築費用の5割で見積もって計算してみてください。
(4)みなし相続財産
現金や有価証券、不動産以外にも故人の財産はあります。相続の現場でよく見られるのが、死亡保険金や死亡退職金などです。これらも故人(つまり被相続人)が亡くなった時点で発生する財産なので、相続財産の一部である「みなし財産」として取り扱われます。
しかし、これらのみなし財産には独自の非課税枠があります。みなし財産額に対して「500万円×法定相続人の数」となるため、この枠内であれば非課税です。この枠を超えたとしても相続税の課税対象になるのは超えた分だけです。
4、要チェック!相続財産を減額できる項目
基礎控除以外にも、相続財産から減額できる項目があります。基礎控除内に収まるかどうかきわどい場合は、こうした項目をちゃんと差し引いておくことが大きな分かれ目になることもあります。
(1)葬儀費用
被相続人が亡くなったことによって発生した費用なので、葬儀費用はマイナスの財産として取り扱います。
葬儀業者やお寺などに支払った金額分を、相続財産から差し引くことができます。
(2)債務(借金)
被相続人に借金や未払い金などの債務があった場合、それも相続財産から差し引くことができます。
(3)生命保険金
生命保険の死亡保険金は、すでに解説したようにみなし財産です。相続財産の中に算入されますが、「500万円×法定相続人」の分だけ控除できるので、その分を差し引きます。
(4)小規模宅地の特例
被相続人が住んでいた自宅を、その被相続人と一緒に住んでいた人が相続する場合、その家の土地の評価額を100坪まで8割減にすることができます。これを、小規模宅地の特例といいます。
同じ家に住んでいた人が亡くなり、その家を相続するということはよくあるケースです。しかも小規模宅地ということで常識的な範囲の財産である自宅を同じ家に住んでいる身内に相続するというのは自然なことなので、その場合は相続税の評価額を大幅に減らしても良いという趣旨の特例です。
このケースに該当する場合は相続する家が建っている土地の評価額を路線価から8割低く算出します。これにより、基礎控除内に収まるというケースも出てくると思います。控除や節税の効果が大きいので、該当する方はぜひとも活用してください。
【参考】小規模宅地等の特例(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
5、ギリギリになりやすいケースで相続税の基礎控除を計算してみよう
相続税の基礎控除に収まるかどうかギリギリになりがちなケースを想定して、基礎控除に収まるかどうかのケーススタディをしてみましょう。
ここで想定するのは、遺産額が5,000万円で法定相続人が妻と子供2人で合計3人です。
(1)5,000万円の相続財産を妻、子ども2人が相続すると?
まずは5,000万円という遺産が基礎控除に収まるかどうかを単純に計算してみましょう。
法廷相続人3人の基礎控除額は、
3,000万円 + 600万円 × 3 = 4,800円
このように4,800万円となったので、200万円オーバーしました。オーバーした分が少ないので相続税額もそんなに大きくなることはありませんが、基礎控除からはみ出しているので要申告です。
しかし、ここで葬儀費用に200万円以上かかっていたら4,800万円を下回るため、ギリギリのきわどいところですが非課税となります。
(2)5,000万円がすべて現金の場合
それではまず、5,000万円の遺産がすべて預貯金などの現金だったとしましょう。この場合、評価額はそのまま5,000万円なので、前項の計算結果と全く同じになります。
基礎控除から200万円はみ出しているので、相続税が非課税とはなりません。
しかし、葬儀費用が200万円を超えている場合は前項と同様に非課税となります。
(3)相続財産に株などが含まれる場合
次に、遺産に株など有価証券が含まれている場合を想定してみました。株の場合は相続開始日の終値に所有株数を掛けて評価をしますが、その計算結果はそのまま現金と同様に扱います。
株価の変動によって所有株の価値が4,800万円を下回ることがあれば、それは基礎控除の範囲内なので非課税・申告不要です。
(4)相続財産の大半が不動産の場合
相続財産の大半が不動産であり、それゆえに相続税の課税対象になるのか判断しかねるというケースはとても多いと思います。ここでは、そんなケースを想定してみました。
想定条件は自宅不動産の相続で、土地の価値は5,000万円、建物の価値は1,000万円です。
土地の価値は路線価に8割を掛けて4,000万円、建物の価値は5割と仮定して500万円です。
5,000万円 × 80% + 1,000万円 × 50% = 4,500万円
4,500万円なので基礎控除の4,800万円を超えてはおらず、相続税は非課税です。
(5)自宅を家族が相続する場合
相続財産が不動産の場合であっても、それが被相続人と相続人が一緒に住んでいた家であれば、「小規模宅地の特例」を使うことができます。前項と同じ条件でこの特例を適用すると、このようになります。
5,000万円 × 20% + 1,000万円 × 50% = 1,500万円
土地の評価額が8割から2割に激減したので、その分が減りました。この特例を使うと、仮に自宅の土地に1億円の価値があっても基礎控除に収めることができます。
1億円 × 20% + 1,000万円 × 50% =2,500万円
このように、土地に1億円の価値があったとしても評価額を8割減ずることができるため、基礎控除に収まります。
まとめ
相続税はとにかく複雑で、しかも税率が高いという厄介な税金です。加えて解釈によって税額が大きく変わることもあるため、基礎控除内に収まるのかどうかきわどい方にとっては悩みの種となります。
この記事では基礎控除の基本的な知識から「自分は基礎控除内に収まるか(つまり非課税か)」という判断ができるよう、解説を進めてきました。基礎控除内にゆうゆう収まるのであれば問題はないと思いますが、計算した結果きわどいという場合は見解の相違によって後から課税される恐れもあるので、その場合は税理士に相談されることをオススメします。