「賃貸併用住宅は住宅ローンが利用できるって本当……?」
不動産投資を検討されている方の中に、「賃貸併用住宅」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
賃貸併用住宅は、マイホームの確保ができるのと同時に、家賃収入からローンへの返済に当てることもできる、実は「一石二鳥」な投資スタイルです。
また、床面積の「1/2以上」を自己居住用にした場合、賃貸経営をしていてもなんと「住宅ローン」を利用できます。
今回は、
- 魅力的な賃貸併用住宅についての基本的な知識
- 住宅ローンを利用する際のメリットを最大限に活用する方法
住宅ローンを活用した賃貸併用住宅経営を成功させたい方のご参考になれば幸いです。
収益物件の選び方について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
目次
1、賃貸併用住宅とは?
(1)賃貸併用住宅とは
賃貸併用住宅とは、自宅の一部を賃貸住宅として貸し出す機能を持つ住宅のことです。例えば、自己所有の土地に家を建てる場合、1階部分を自己居住用にして2階部分を賃貸住宅にするといったケースが賃貸併用住宅に該当します。
(2)賃貸経営するのに?住宅ローンを利用することができる
自己居住する部分と賃貸部分が同じ建物の中にあれば、どんな比率であっても賃貸併用住宅となります。通常であれば、賃貸という目的で経営するという観点では、不動産投資に該当しますので、不動産投資ローンを利用することになりますが、しかし、賃貸併用住宅の場合、居住部分の面積によって住宅ローンを利用することができます。
①住宅ローンの場合
居住部分が最低でも50%以上、賃貸部分が最大でも50%未満の場合、賃貸経営をしながらも住宅ローンを利用することができます。
住宅ローンの方が金利の安さや返済期間の長さ、さらに審査の通りやすさなど、そのメリットを享受できる賃貸併用住宅に注目が集まっているのです。
②賃貸の面積が大きかった場合はどうなる?
一方、賃貸の面積は50%以上となった場合、不動産投資ローンになるのでしょうか。
その場合、建物全体で不動産投資ローンを利用するのではなく、
- 居住
- 賃貸
と別々に区分登記をすることによって、独立した不動産の扱いになります。
従って、居住用の部分は住宅ローンを利用し、賃貸の部分は不動産投資ローンと2本のローンを利用することができます。
2、賃貸併用住宅がなぜいいのか?賃貸併用住宅だから享受できるメリット
なぜ、自宅とは別にアパート経営をするという形ではなく、賃貸併用住宅にした方がいいのでしょうか。
以下にて賃貸併用住宅だから享受できるメリットを詳しく解説していきます。
(1)住宅ローンが使える
上記にも書きましたように、賃貸物件に融資を利用する場合は、通常不動産投資ローンを利用することになります。不動産投資ローンは事業性のローンなので、住宅ローンとは根本的に考え方が異なるため、金利も住宅ローンより高くなります。
一方、住宅ローンは個人がマイホームを持つための仕組みとして恵まれた条件で融資を受けられるので、上記「1−(2)—②住宅ローンの場合」にて書いた条件をクリアすれば、賃貸併用住宅の購入に住宅ローンを利用できるという大きなメリットがあります。
①金利が低い
住宅ローンは、個人がマイホームを買うためのローンとなるため、不動産投資ローンと比較して、金利が低く設定されています。
変動金利で一般的に平均して
- 不動産投資ローンの金利:年2〜4%
に対して、
- 住宅ローンの金利:年0.7〜0.8%
と圧倒的に低いことが分かります。
②ローンの返済期間が長い
不動産投資ローンの場合、原則として投資対象物件の法定耐用年数(※)が返済期間の上限となります。
例えば、標準的な木造住宅であれば22年なので、不動産投資ローンの場合、22年前後が最長となりますが、住宅ローンの場合、最長35年までと返済期間を利用することができます。
ローンの返済期間が長いほうが月々の返済額が少なくなるので、それだけ賃貸経営がしやすくなります。
※法定耐用年数は国税庁が定めており、資産の減価償却を算出する際に用いられます。
(2)節税効果
賃貸併用住宅には、一部が賃貸住宅であるがゆえに以下のような節税効果があります。
①賃貸住宅は相続税の評価額が減額される
賃貸住宅が建っている敷地は、そうでない敷地よりも「2割」ほど相続資産としての評価額が低くなります。また、貸家であれば更に「3割」ほどの評価額を低減することが可能です。
つまり、住宅だけで相続するより賃貸併用住宅を相続した方が、賃貸部分にこの減額が適用されるため相続税の節税効果として有効です。
なお、不動産を相続した場合の相続税の計算方法について詳しくは「不動産は相続税対策として有効?不動産の相続税の仕組みについて」を参考にしてみて下さい。
②賃貸部分の経費を計上できる
賃貸併用住宅は、自宅でありながら賃貸部分ではアパート経営をしていることになります。アパート経営を行うための投資は経費として認められるため、減価償却をはじめ設備費なども計上することができることによって、サラリーマンとして給与所得を得ている人であっても確定申告をすれば所得税を節税することができます。
このメリットは特に、サラリーマン大家として賃貸併用住宅を経営している人に有効です。
不動産投資として計上できる経費について詳しくは「確定申告時に知っておくと得する不動産所得の12個の経費とは」を参考にしてみて下さい。
(3)居住スペースを自由に変更できる
賃貸併用住宅はその特殊な造りから以下のようなメリットも考えられます。
①いつでも自己居住に変更できる
購入した当初は賃貸併用であっても、家族構成の変化に応じて賃貸部分を自己居住に切り替えることも可能です。例えば、子供が結婚して所帯を持つことに伴い、子供の世帯と二世帯住宅にするといった場合などが考えられます。
②自宅部分も賃貸にできる
購入した当初は賃貸併用であった建物の自宅部分も将来賃貸にして、建物を全部賃貸物件にすることも可能です。
自宅と賃貸という2つの顔を持つ賃貸併用住宅だからこそ、このようにフレキシブルな使い方が可能になるのです。
③ローンの利用変更に注意
賃貸併用住宅は、将来のライフスタイル変更によって、自由に賃貸から居住に変更したり、居住スペースを賃貸に変更することはできますが、その際にローンの種類に注意する必要があります。
当初住居スペースが多く、住宅ローンを利用していた場合、賃貸のスペースが建物の50%以上になったら、
住宅ローン ⇛ 不動産投資ローン
へと融資の組み直しする必要があります。
3、賃貸併用住宅で住宅ローンを利用する場合の5つのメリット
賃貸併用住宅は「住居スペースが建物の50%以上」という条件をクリアすれば、賃貸経営をし続けても住宅ローンを利用することができます。住宅ローンを利用することで具体的にどんなメリットが得られるのでしょうか。
(1)住宅ローンの方が審査に通りやすい
不動産投資向けの事業性ローンは、投資対象の不動産が持つ担保価値や事業の有望性、収益性、そして融資を受ける人の与信などによって審査が行われます。それに対して住宅ローンは個人向けに「マイホームを持ちたい」という夢をかなえるために設けられた仕組みなので、どちらかというと「マイホームを持ちたい」という人を支援する意味合いが強く、審査に通りやすいメリットがあります。
事業性のローンで必ず審査される不動産物件の収益性は審査結果に大きく影響を及ぼしますが、住宅ローンでは収益性が審査の基準になることはありません。一定期間以上定職に就いていて今後もそれが続く見込みがあり、過去3年間に重大な病気をしていたという既往歴がないことなど、あくまでも返済者本人の与信で審査されるため、事業性ローンよりも審査に通りやすいのです。
(2)家賃収入を住宅ローン返済に充当できる
賃貸併用住宅をすることによって、賃貸部分で得られる家賃収入を住宅ローン返済に充当することができます。当然ながら一般の住宅よりも賃貸部分がある分だけ建築費用も高くなりますが、家賃収入の見込みが立つことでそれを上回るメリットがあるとされています。
例えば、1階に自宅部分、2階に賃貸部分とすみ分けられた賃貸併用住宅があるとします。2階部分にはワンルームを4部屋設けて、それぞれの部屋から6万円の家賃を見込めるとすると、満室で24万円の家賃収入です。賃貸併用住宅を建てた際の住宅ローン借入額が5,000万円だとすると、固定金利2%(※)、元利均等返済で返済期間が30年だとすると毎月の返済額は約19万円になります。
24万円の家賃収入に対して約19万円の返済という図式を単純計算すると、マイホームを新築した上で毎月5万円の手残りがあります。
なお、こちらはあくまでも机上の計算ですが、賃貸併用住宅では建築費用が高くなる分を家賃収入でまかない、プラス収支に持っていくことがひとつの目標となるでしょう。
(3)固定金利を選ぶことにより上昇のリスクにも対応できる
ゼロ金利、さらにはマイナス金利という史上空前の低金利が続く日本経済ですが、バブル景気に沸いていた時期は史上空前と言われた高金利でした。たった数十年でこれだけ金利は変動するものという前提に立つと、低金利に魅力を感じて融資を受け、不動産投資をしたとしても変動金利だと経済情勢の変化によって想定外の金利負担が発生してしまうことがあります。
事業性の不動産投資ローンで融資を受ける場合は事実上変動金利の商品がほとんどに対して、住宅ローンの場合は固定金利を選ぶことができます。将来的に金利上昇が見込まれる(現在のマイナス金利から比べると上昇する可能性のほうが高い)のであれば、金利を固定して上昇リスクに備えることが可能です。
また、変動金利で住宅ローンを利用したとしても、金利変動に備える仕組みがあります。
- 返済開始「5年間」のローン返済額は固定されている
仮に融資を受けた直後に金利が上昇しても「5年間」は影響をうけません。
さらに、金利上昇局面となって5年後に金利見直しがあったとしても、
- 返済額の加算は「1.25倍」まで
となっています。
(4)自己資金が少なくてもマイホームが手に入る
不動産の購入時に問題になるのが、自己資金です。自己資金はあればあるだけ購入しやすくなりますが、ほとんどの方は土地などを所有している可能性は低く、土地も購入の対象に含まれるため、多額の自己資金を用意しなければなりません。
こうした状況の方がアパート経営となると一気にハードルが高くなってしまいますが、賃貸併用住宅はあくまでも自己居住がメインの「マイホーム」なので、たとえ自己資金が少なくても住宅ローンの融資を受けられる可能性が高くなります。
(5)住宅ローン減税のメリット
賃貸併用住宅の購入に住宅ローンが利用できることによって、自宅部分に対しては住宅ローン減税という魅力的な制度も利用可能になります。
住宅ローン減税を簡単に説明すると、「住宅ローン残高の1%が10年間還付される」という減税制度です。この制度の目的はもちろん、減税メリットを設けることによるマイホーム取得促進、つまり不動産市場の活性化です。
住宅ローン減税制度について詳しくは、国税庁の「住宅を新築又は新築住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)」をご参照下さい。
なお、平成26年4月1日から平成31年6月30日までに購入した場合、一般住宅の場合、年間の控除額が上限「40万円」となっており、10年間最大「400万円」節税効果があります。長期優良住宅の場合、年間「50万円」と更に上限が高くなり、10年間で最大「500万円」まで節税効果が得られます。
4、賃貸併用住宅の住宅ローンを利用する時の3つの注意点
住宅ローンを利用することができるなどとても魅力の多い賃貸併用住宅ですが、特有のリスクや注意点もあります。賃貸併用住宅にて住宅ローンを利用する時に知っておきたい3つのポイントを解説します。
(1)ローンの借入額が大きくなる
一般的な住宅に対して、賃貸部分があるので購入金額はその分高くなります。購入金額が高くなるということは住宅ローンの借入額も大きくなるため、それだけ多額の借金をすることは避けられません。
自己居住部分だけであれば水廻りなども1系統で済みますが、賃貸部分に5部屋を設けたとしたら、それぞれの部屋に水廻りや空調などを5部屋分設置しなければなりません。
平均的な事例では自宅のみ購入するより借入れ額は倍以上になるので、返済額もその分大きくなることもイメージしておくべきでしょう。
(2)空室リスクが住宅ローン返済に影響する
賃貸住宅経営には、空室リスクが挙げられます。賃貸併用住宅の賃貸部分に空室があると期待通りの家賃収入が得られなくなります。
特に賃貸併用の場合、賃貸専用で建てたマンションやアパートのように入居者目線だけを優先するわけではないため、競争力が弱くなるという側面があります。満室という前提に住宅ローンの返済計画を立てると1部屋でも空室があるだけで資金計画が大幅に狂ってしまうため、事前に空室を想定したうえでの返済シミュレーションをするようにしましょう。
(3)年収のハードルが高くなる
賃貸併用住宅の購入は住宅ローンを利用できるのが大きなメリットですが、その審査に「賃貸部分の見込み家賃収入を返済能力として算入できない」ことを知っておく必要があります。
事業性の不動産投資ローンの場合は収益性が審査対象になるため、家賃収入を織り込んだ上での審査が可能ですが、住宅ローンはあくまでも自分で住む家を買うためのものという原則があるため、家賃収入を前提にすることはできません。
従って、賃貸併用住宅は購入金額が高くなるため、それを「家賃収入を考慮しない年収」で返済できるかどうかが審査を左右されます。そのため、4,000万円規模の融資を受けるにあたって、必要とする年収の目安は600万円程度であるとされています。
5、賃貸併用住宅で失敗しないために知っておきたい3つのポイント
賃貸併用住宅は、自宅と同じ建物にある賃貸物件を経営する「事業」です。事業として失敗しないためには、以下の3つのポイントをおさえておきましょう。
(1)オーナーと入居者の距離感が不利になることも
賃貸併用住宅は、オーナーと入居者が同じ建物で生活をすることになります。この距離感が賃貸経営を難しくする場合があります。
具体的に以下のような問題が考えられます。
- オーナーが同じ建物に住んでいることが入居者募集で不利になる場合がある
- 家賃滞納や騒音などのトラブル対処がしづらい
完全に対処することは難しいですが、例えば、オーナーが最上階に、入居者は下の階にするなど極力顔を合わせないような配慮をすることは大切と言えるでしょう。
(2)複数の住宅ローンを同時に組むことはできない
住宅ローンは個人がマイホームを持つことを支援する意味合いの仕組みとなっているため、同時に複数の住宅ローンを利用することはできません。
従って、賃貸経営を拡大する場合、住宅ローンではなくセカンドハウスローンや不動産投資ローンなど、別の調達手段を検討する必要があります。
(3)賃貸経営の目線から立地を考慮する必要がある
賃貸併用住宅と言っても、賃貸経営をする以上、賃貸としてのニーズがある立地であるかどうかを見極める必要があります。
- 相続で広い土地を取得したから
- 子どもたちが独立して空きスペースが増えたから
など、せっかくだから活用しようという自分の目線で決めるのではなく、賃貸物件として借り手がつく立地であるかどうかを確認してからにしましょう。
賃貸経営に適している立地なのかどうかは、以下賃貸物件を借りる時に重視される立地条件を参考にしてみて下さい。
- 最寄り駅から徒歩10分圏内
- ターミナル駅へのアクセスが便利
- 通勤・通学しやすい路線である
など。
6、賃貸併用住宅を建てる場合の流れ
最後に、実際に賃貸併用住宅を建てて、賃貸経営をスタートするまでの流れをみてみましょう。
大きく以下の5つのステップになります。
(1)土地の選定・購入
土地を選定する時は、建蔽率と容積率を明確におさえておくことが大切です。
土地の用途によって、建蔽率と容積率が異なります。建蔽率と容積率が低いと、土地の面積が大きくても建物の面積が小さくなる場合がありますので、自宅と賃貸のスペースがきちんと取れるかどうか事前にプランニングしてから、土地の購入を決めるようにしましょう。
(2)賃貸併用住宅の建築
土地が決まりましたら、工務店などを決めて、具体的な建築プランを作成して費用を確定させましょう。
(3)融資手続きを行う
建築プランなどの建築費用が確定したら、金融機関に融資手続きを行いましょう。
なお、居住面積が建物全体の面積の50%以上を超えた場合、「住宅ローン」を申請するようにしましょう。
(4)管理会社を選定
賃貸経営には、入居者の募集、家賃の入金確認など管理するにはノウハウが必要です。従って、管理のコストはかかりますが管理は管理会社に任せるようにしましょう。
なお、管理会社を選定するときにも賃貸併用住宅の賃貸管理に実績がある会社を選ばれるとよいでしょう。
(5)入居者の募集
建物に対する建築確認が出たら、管理会社と相談し入居者の募集を開始しましょう。
まとめ
今回は賃貸併用住宅のメリットやローンなどについて書きましたが、いかがでしたでしょうか。
本来であれば事業性の不動産には住宅ローン利用できないですが、賃貸併用住宅の場合、「居住面積が建物全体の面積の50%以上である」という条件をクリアできれば、住宅ローンを利用できるという大きなメリットがあります。
とはいえ、不動産投資にはリスクがつき物です。賃貸併用住宅だからと言ってそれは例外ではありません。メリットを最大限に活用するための知識と注意点を十分に理解した上で、賃貸住宅経営の成功にお役立ていただければ幸いです。