一棟アパートの売却を検討している方には、どのような知識が必要なのでしょうか。
不動産投資は、最後の売却に成功してこそはじめて「成功した」と言えるため、出口であるアパート売却で失敗するわけにはいきません。
そこで重要になるのが、
- 出口戦略の描き方
- アパート売却の最適なタイミング
- 相場観を知り不利な売却交渉に持ち込まれないようにする
といった、いわば「売却戦略」です。
この記事では、アパート売却に欠かせない知識や、売却にかかるコストについて解説します。
アパート経営全般については、以下の記事をご覧ください。
アパート経営するには?成功させるために知りたい11のこと
1、アパート売却の重要性とタイミング
アパートに限らず、不動産投資は売却により利益確定して、初めて成功と呼ぶことができます。
不動産投資の出口戦略の重要性と、売却のタイミングについて解説します。
(1)不動産投資の出口戦略とは
投資には必ず、入口と出口があります。
物件選びをして購入するところが入口で、最後にその物件を売却する時が出口です。
不動産投資の出口戦略とは平たく言うと、「確実に物件を売却する」ことと、「売却で大損しない」ための戦略です。
アパート経営でキャッシュフローを稼ぎ出したとしても、最後の売却で大損をしてしまっては、売却損のせいでトータルの収支が赤字になってしまう可能性すらあります。
不動産投資の目的は、最終的な利益確定であることを忘れないようにしましょう。
(2)アパート売却の最適なタイミング
アパートなどの不動産価格は、常に変動しています。株やFXのように、刻一刻と変動することはありませんが、基本的に年単位で価格が変化していきます。
建物は時間の経過とともに劣化していくため、一般的には時間の流れとともに価格が低下します。
もし新築時よりも価格が高くなるようなことがあるとしたら、それはアパートが建っている土地の価格が上昇した時です。
いずれにしてもアパート売却のタイミングとして押さえておきたいことは、「物件価格が大きく下がる前に売る」ということです。
少しでも高く売るという目標は、少しでも安くなる前に売り抜けるという目標に置き換えることもできます。
アパート売却を意識する具体的なタイミングは、以下の5つです。
①築20年を迎える前は売りたい時が売り時
アパートは築20年を過ぎると、価格下落の速度が落ちます。
つまり、築20年までの間は比較的早く価格が下がっていくので、築20年未満のアパートは売りたいと思った時が売却タイミングだといえるでしょう。
②築20年以上のアパートは売り急ぐ必要なし
先述したように、アパートの価格低下は築20年を過ぎると緩やかになります。
今年売っても来年売ってもそれほど大きな違いがない可能性が高く、築20年を超えたら売り急ぐ必要性が薄れます。
売却する理由があれば今すぐ売却活動を始めても問題はありません。
しかし、キャッシュフローが出ているのであれば、買いたい人が現れたら考えよう、といった意識で良いでしょう。
③有利な条件で買いたい人が現れた時
誰か買いたいという人が現れた時は、売却のチャンスです。
自ら買いたいと言っているのですから値引きを要求してこないかも知れませんし、何よりもすでに購入の意思を持っているので価格次第ではすぐに交渉が成立します。
高い利回りが出ているのであれば所有し続けるのも一つの手ですが(買いたい人が現れる物件はそういう物件が多い)、自分で描いている出口戦略と比べて大差がないのであれば、早めに売って利益を確定するのも有効な戦略です。
④周辺環境が変化する前
アパートの需要は、周辺環境に左右されることがよくあります。
特に都市部ではない場所にあるアパートは、大学の郊外キャンパスや大企業の工場など、特定の需要に応じる形で建てられていることも多いでしょう。
上記のような条件に該当するアパートをお持ちの方は、賃貸需要の根拠となっている施設の行動に敏感になる必要があります。
こうした施設が移転したり、なくなるという情報を掴んだら、できるだけ早く売り抜けるのが得策です。
⑤入居者の退去後、次の入居者が決まるまでの期間が長くなってきている
以前は退去する人がいてもすぐに次の入居者が決まっていたのに、最近は次の入居者が決まるまでの期間が長くなってきたと感じたら、それも売り時のサインです。
なぜなら、物件の集客力が何らかの理由で落ちてきているためで、それが顕著になってくると売りにくくなるからです。
物件の集客力が落ちてきた初期段階で売却活動をしておけば、空室の影響を最小限に抑えることができるでしょう。
2、アパート売却の基礎知識
まずは、アパートの売却活動を始める前に、押さえておきたい基本事項を確認しておきましょう。
(1)ローン残債がある場合
アパートを購入または建築する際にアパートローンを利用していて、ローンの残債がある場合は、以下のいずれかの方法で売却することになります。
- 売却代金でローンを完済してから売却する
- 別途、資金を調達して完済してから売却、売却代金で調達した資金を返済する
残債がある間はアパートに金融機関の抵当権が設定されています。抵当権がある状態では所有権を移転できないので、抵当権を抹消するためにはローンの完済が必要になるというわけです。
売却活動を始める前に、まずはローンの残債を把握しておきましょう。
(2)所有期間を確認する
アパート売却時に売却益が出た場合、譲渡所得税を支払う必要があります。
譲渡所得税は、アパートの所有期間により税率が異なります。
所有期間 | 所得の種類 | 税率 |
---|---|---|
5年以下 | 短期譲渡所得 | 39.63% (所得税30.63%+住民税9%) |
5年超 | 長期譲渡所得 | 20.315% (所得税15.315%、住民税5%) |
上表の通り、所有期間により税率が大きく異なるため、売却を検討しているアパートの所有期間を確認しておくと良いでしょう。
(3)アパート売却に有利な外的要因
アパート売却をめぐる、有利な外的要因は2つあります。
- 中古不動産価格が好調である
- 不動産投資ブームによる需要増
上記2点の傾向は首都圏、関西圏、中部圏といった三大都市圏でとくに顕著にあらわれます。三大都市圏でアパートを所有している方は、上記2点の要因を定期的にチェックすることで有利な売却が期待できるでしょう。
(4)アパート売却に不利な外的要因
アパート売却の外的要因には、有利なものばかりではありません。アパート売却に不利に働くと予想される要因は、以下の通りです。
- 銀行や不動産業者のスキャンダルによる融資締め付け
- 地域によっては供給過剰気味になっている
2018年に発生した融資書類の改ざんや不正融資などのスキャンダルは、現在も不動産投資業界に影響を与えています。一連の事件による融資審査の厳格化は、不利な要因ではあります。
一方、融資審査の厳格になった現在の状況でもローン審査に通過する人は、金融機関の与信が以前よりも高く評価されていると考えることもできるのです。
また、賃貸住宅が供給過剰になっている地域があることもアパート売却に不利にはたらく要因となります。
供給過剰になっている地域ではすでに相場の値崩れが起きている可能性が高く、売却活動に影響が及ぶでしょう。
3、失敗しないアパート売却、7つのポイント
この章では、アパート売却の交渉において、スムーズかつ有利に進めるためのポイントを7つお伝えします。
(1)事前に相場観をつかんでおく
日本全国で行われている不動産取引の実績を、国交省がデータベース化している便利なサイトがあります。
売却をお考えのアパート物件がある近隣で似たような取引があれば、その時の成約価格が参考になると思います。近隣に類似取引がない場合は、少しエリアを広げて検索してみてください。
(2)一括査定サイトを活用する
不動産一括査定サイトを利用することで、売却価格の相場を把握できるだけでなく、複数社の査定価格を簡単に比較できます。
代表的な不動産一括査定サイトを3つ紹介します。
①すまいValue【PR】
「すまいvalue」は、以下の不動産大手6社が共同で立ち上げた一括査定サイトです。
- 三菱地所の住まいリレー
- 三井のリハウス
- 野村不動産ソリューションズ
- 住友不動産販売
- 東急リバブル
- 小田急不動産
不動産流通業界をリードする6社が直営する、他にないサービスといえます。
年間11万件以上(2022年度6社合計)もの売買仲介取引を成約している実績があり、さらに利用した人の95.5% が安心感があると回答しています。
安心感を最優先させたい人におすすめの一括査定サービスです。
②HOME4U【PR】
「HOME4U」は、NTTのグループ会社であるNTTデータ・スマートソーシングが運営する一括査定サービスです。
HOME4Uの一括査定サイトとしての唯一無二の特徴は、電話相談対応をしていることです。他に電話相談ができる一括査定サイトはありません。
また、プライバシーマークを取得しており、個人情報を手厚く保護する体制も整っています。
おもに地元密着の不動産会社が登録しているため、独自の審査基準を作り、常に悪徳不動産業者のパトロールを行っています。信頼性はかなり高いといえるでしょう。
③SRE不動産【PR】
不動産価格を複数社にまとめて依頼する窓口になる「不動産一括査定サイト」とは異なりますが、特色ある不動産査定サイトをご紹介します。
「SRE不動産」はソニーグループの不動産会社です。
SRE不動産では、業界最高水準の精度を誇るAI が、膨大なデータや、さまざまな条件から売却の推定価格を算出します。
また、注目すべき特徴として、ひとりの営業が売り手と買い手の双方の担当者となることを原則禁止し、売却専門・購買専門に組織を分けたエージェント制度を導入しています。
業界最高水準のAI(人工知能)による客観的でより正確な査定価格の算出と、売却に特化した専門エージェントのサポートによって、
- 安心安全なお取引
- 早く高く売ること
を徹底的に追求しているのです。
なお、SRE不動産はサービスエリア(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、兵庫県、京都府、奈良県)が限られていますが、該当する場合はぜひおすすめしたいサイトです。
(3)入居者がいる状態で売却する
全室が満室状態であるのが理想的ですが、アパートを売却する際にはできるだけ入居率が高いほうが売却しやすくなります。
理由は簡単で、次のオーナーが入居者探しをする手間が省けるのと、稼働率が高い物件であることを客観的な事実として伝えられるからです。
これまでの経験則で退去者が多くなる時期が分かっているのであれば、その時期に差し掛かる前に売却活動を始めるのが良いでしょう。
(4)売却ありきで売却活動をしない
アパートの売却活動の目的は、高値もしくは納得のいく価格で売却することです。
「いくらでもいいので早く売却したい」という目的であれば話は別ですが、価格に納得がいっていないのに売却をする必要はありません。売却活動を始めたからといって、売るか売らないかは売主の自由です。
売却ありきで活動を始めると、価格に納得がいかないのに売るという結末になってしまいます。納得がいかなければ売らないという選択肢も残しておくことが、交渉を有利に進めることにつながる、と覚えておきましょう。
(5)仲介依頼は専任媒介で
仲介により売却する際は、不動産会社と媒介契約を結びます。媒介契約は、大きく3種類に分けられます。
専任専属媒介契約 | 専任媒介契約 | 一般媒介契約 | |
売買依頼業者 | 1社のみ | 1社のみ | 複数社可能 |
自分で探した買主との直契約 | NG | OK | OK |
レインズ登録義務 | 義務あり | 義務あり | 義務なし |
業務報告義務 | 1週間に1回以上 | 2週間に1回以上 | 特になし |
一般媒介契約は自由度が高く、幅広く買い手を探すことができますが、不動産会社にとっては競争相手が多いため、力を入れて探してもらいにくいケースが多くあります。結果として、売却に時間がかかる可能性があるのです。
専任専属媒介契約、専任媒介契約は1社だけに依頼をする方法で、一般媒介契約と比べ依頼者にとって制約があります。しかし、不動産会社が力を入れて売却先を探してくれるため、早く売れる可能性が高い契約といえるのです。
特別な事情がない限りは、専任媒介契約で売却活動をするのが一般的でしょう。
(6)購入希望者との交渉は柔軟に
売却活動を始めて、最も購入希望者から問い合わせが来るのは、売り出した直後です。
情報が新しい期間が最も購入希望者からも注目されやすく、売り出した直後に売ってしまうのが結果的に有利な売却につながります。
というのも、不動産の売却情報には鮮度のようなものがあり、鮮度が良いうちは注目度が高く買い手が現れやすいのですが、時間が経つにつれて情報の鮮度が落ちてくると引き合いが減ってくるのです。
一般的に、売却期間が長くなるほど、売却価格は下がる傾向にあります。そのため、売却活動を始めた直後の交渉には、特に柔軟に応じるようにしましょう。
査定価格より少し安めに設定をしたり、値引きに応じたりして早めに売却できるようにすることで結果的に高く売却できるケースが多くあります。
不動産を高く売るというのは、早く売ることと同義なのです。
(7)急ぐ場合以外は買い取りは避けたい
アパートの売却には仲介によって買い手を探す方法と、不動産会社自体が買主となって買い取ってもらう方法があります。
不動産会社が買い取ることを不動産買取と言いますが、買取は手軽で早いなどのメリットがある一方で、価格は30%くらい低くなるのが相場です。
価格を下げてでも早く売りたいというのであれば買取も検討の価値がありますが、売却を急ぐ特別な理由がないのであれば買取は避けたほうが良いでしょう。
4、アパート売却に必要となる費用と税金
アパート売却に伴って発生する費用についても、見ておきましょう。
(1)アパート売却に必要な費用
まずは、アパート売却に伴って必ず発生する費用や、必要に応じて発生する費用について解説します。
①仲介手数料
売却が成立した時に、仲介を依頼した不動産会社に支払う手数料です。
仲介手数料の計算式は、以下の通りです。
売却価格の3% + 6万円 + 消費税
②測量費(必要に応じて)
アパート売却で、隣接地との正確な境界線をはじめとする正確なデータが必要になることがあります。その場合は測量を依頼することになり、測量費はおおむね50~80万円程度かかります。
③ハウスクリーニング(必要に応じて)
一般的な掃除だけではきれいにできない部分があり、それが売却の妨げになると感じる場合は、ハウスクリーニングが有効です。
ハウスクリーニングは業者によって価格がまちまちですが、おおむね10万円前後の予算を取っておけば、気になる箇所のクリーニングができるでしょう。
④廃棄物処理費(必要に応じて)
通常のごみ出しだけでは対処できないような廃棄物がある場合は、専門の業者に依頼することになります。
ごみの大きさや量にもよりますが、最大で30万円程度の予算を取っておくと安心でしょう。
(2)アパート売却に伴う税金や公的費用
費用の次は、税金や公的な費用についても見ておきましょう。
①印紙税
アパートの売買契約が成立したら、売主との売買契約書を作成します。その契約書に印紙を貼る必要があり、これが印紙税となります。
- 500万円~1,000万円だと5,000円
- 1,000万円~5,000万円だと1万円
それぞれ売却価格によって印紙税の金額は異なりますが、そこまで大きい金額ではないため、1万円程度かかると覚えておくと良いでしょう。
②登記費用
購入したアパートを登記する費用は、買主側が負担します。
売主側は、抵当権の抹消登記の手続きが必要です。
ローンを利用してアパートを購入または建築した場合は、金融機関の抵当権が設定されています。完済すれば抵当権は消滅するのですが、抹消をしていなければ抵当権が設定されたままになっています。
それを抹消する作業が、抵当権の抹消手続きです。通常は司法書士に依頼して行うもので、手数料は1万円から1万5,000円程度です。
なお、抵当権抹消を自分で手続きした場合は、不動産1つにつき1,000円かかります。土地と建物は別の不動産として取り扱われるため、アパートの土地と建物の抵当権を抹消すると2,000円かかることになります。
まとめ
この記事では、アパート売却に関する基礎知識や、有利に進めるポイントを解説してきました。
不動産会社に問い合わせをした後、最初にどんなアプローチをしてきたのか、その後やり取りをしていくなかで信頼できそうかどうかを精査することも大切です。
まずは売却に関する知識を身につけ、情報収集を欠かさないことが、失敗しないアパート売却につながるでしょう。