「A社では融資が通らなかったのに、B社に相談したら『うちなら通ります』と言われた」——不動産投資を検討していると、こうした場面に出会うことがあります。同じ物件なのに、なぜ金融機関によって結果が変わるのでしょうか。
結論からお伝えします。物件の「売買価格」が金融機関によって変わることはありません。変わるのは「担保評価額」と「融資可能額(いくら貸してくれるか)」です。そして、この評価額が金融機関ごとに大きく異なるのは、評価の”物差し”そのものが違うからです。
さらに重要なのは、「融資が通る=良い物件」ではないという点です。むしろ「他行では通らないがうちなら通る」という提案には、金利や条件の面で注意すべき理由が隠れていることがあります。12年にわたり累計数百件のご相談を受けてきた立場から、この仕組みを中立に解説します。
📌 この記事の結論
- 金融機関で変わるのは売買価格ではなく「担保評価額」と「融資可能額」。
- 評価方法は主に①積算評価(土地+建物の資産価値)②収益還元法(家賃収入から逆算)の2つ。どちらを重視するかで結果が変わる。
- 金融機関のタイプ(メガバンク/地銀/信金/ノンバンク/公庫)によって、評価軸・金利・エリア・対象者がまったく異なる。
- 「融資が通る=良い物件」ではない。金利が高い、期間が短いなど、通る理由が”条件の悪さ”にあるケースに注意。
目次
1. まず整理|「物件価格」と「評価額」は別物
混同されやすいのですが、次の3つはまったく別の数字です。
| 用語 | 意味 | 金融機関で変わる? |
|---|---|---|
| 売買価格 | 売主が提示し、買主と合意する取引価格 | 変わらない |
| 担保評価額 | 金融機関が「この物件はいくらの担保価値があるか」と判断した額 | 大きく変わる |
| 融資可能額 | 担保評価額と本人の属性を踏まえ、実際に貸せると判断した額 | 大きく変わる |
つまり3,000万円の物件は、どの金融機関から見ても3,000万円です。しかし「担保としては2,400万円の価値」と見る銀行もあれば、「3,000万円の価値がある」と見る銀行もある。その差が、頭金の額や融資の可否を左右します。
2. なぜ評価額が変わるのか|2つの評価方法
金融機関が担保評価に用いる代表的な方法は、大きく2つあります。
方法①:積算評価(資産としていくらか)
土地と建物を別々に評価して合算する方法です。おおまかには次のように考えます。
- 土地:路線価や公示地価などをもとに、面積を掛けて算出
- 建物:再調達価格(今もう一度建てたらいくらか)×(法定耐用年数−築年数)÷法定耐用年数
ここで重要なのが法定耐用年数です。構造によって次のように定められています。
| 構造 | 法定耐用年数 | 積算評価への影響 |
|---|---|---|
| 木造 | 22年 | 築古だと建物評価がほぼゼロになりやすい |
| 軽量鉄骨造 | 19〜27年(厚みによる) | 木造よりは長いが短め |
| 重量鉄骨造 | 34年 | 比較的長く評価が残る |
| 鉄筋コンクリート造(RC) | 47年 | 長期にわたり評価が残りやすい |
この方式では、築古の木造アパートは建物評価がほぼ出ない一方、RC造や土地の広い物件は評価が出やすいという傾向があります。積算評価を重視するのは、地方銀行や信用金庫に多いとされます。
方法②:収益還元法(いくら稼ぐか)
その物件が生み出す家賃収入から逆算する方法です。おおまかには「年間の純収益 ÷ 還元利回り」で評価額を求めます。
この方式では、築古でも入居率が高く家賃収入が安定していれば評価が出ます。逆に、新築でも家賃が相場より高く設定されていて将来下落が見込まれる場合、評価は伸びません。
収益性を重視するのは、一部の銀行やノンバンクに多い傾向があります。
同じ物件でも結果が変わる理由
ここまでで、お分かりいただけたかと思います。築25年の木造アパートで満室稼働という物件があったとき——
- 積算評価を重視する金融機関:建物の評価がほぼゼロ → 融資額が伸びない/期間が短い
- 収益還元法を重視する金融機関:家賃収入が安定している → 評価が出て融資が付く
まったく同じ物件でも、物差しが違えば答えが変わる。これが「金融機関によって違う」の正体です。
3. 金融機関のタイプ別|評価軸と特徴
| 種類 | 金利の傾向 | 審査の傾向 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| メガバンク | 低い | 厳しい | 本人の属性(年収・勤務先・資産)を重視。物件も都心の優良物件に限られやすい |
| 地方銀行 | 中程度 | 中程度 | 営業エリアの制約あり。積算評価を重視する傾向 |
| 信用金庫・信用組合 | 中程度 | 中程度 | 地域密着。エリアと居住地・勤務地の制約が強い |
| ノンバンク | 高い | 柔軟 | 他行で通らない案件も検討されやすい。その分、金利が高い |
| 日本政策金融公庫 | 低い | 独自基準 | 融資期間が短めになりやすい。女性・若年者・シニア向けの優遇制度あり |
このように、「どこで借りるか」で金利も期間も条件も変わります。そしてそれは、投資の収支を大きく左右します。
4.【最重要】「うちなら融資が通ります」は良い話とは限らない
ここが、この記事で最もお伝えしたい部分です。
他の金融機関で断られた物件について、営業担当から「うちの提携先なら融資が通ります」と言われることがあります。一見ありがたい話ですが、冷静に考えるべきポイントがあります。
なぜ他行では通らなかったのか
金融機関が融資を断るのは、その物件または借入計画にリスクがあると判断したからです。「通らなかった」という事実そのものが、一つの評価結果です。
「通る」理由が条件の悪さにあることも
- 金利が高い:ノンバンクなどは審査が柔軟な代わりに金利が高く、収支を圧迫する
- 融資期間が短い:毎月の返済額が増え、キャッシュフローが出にくくなる
- フルローンで組む:自己資金が少なくて済む反面、借入が大きく金利上昇に弱い
つまり「融資が通るかどうか」と「投資として成立するかどうか」は別問題です。融資が通ったことを”お墨付き”と受け取ってしまうと、判断を誤ります。
フルローンのメリットとリスクは不動産投資ローンの金利上昇でどうなる?5つの影響と対策もあわせてご覧ください。
その融資条件、本当に妥当ですか?
金利・期間・借入額は、投資の成否を大きく左右します。しかし提案してくる営業担当は「売る側」であり、条件の妥当性を中立に評価する立場にはありません。
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5. 融資額を左右する「物件以外」の要素
評価は物件だけで決まるわけではありません。借りる人の属性も同じくらい重要です。
- 年収・勤務先・勤続年数:安定性が重視される
- 自己資金:頭金を入れられるほど条件は良くなりやすい
- 既存の借入:住宅ローンや他の投資用ローンの残高
- 金融資産:預貯金・有価証券などの保有状況
- 信用情報:延滞履歴などの有無
同じ物件でも「誰が買うか」で融資条件は変わります。これも「金融機関によって違う」と感じる一因です。
6. 買う側が取るべき3つの行動
行動①:複数の金融機関の条件を比較する
1社の提案だけで判断せず、金利・期間・借入額をセットで比較します。金利が0.5%違うだけで、総返済額は数百万円変わることもあります。
行動②:「通るか」ではなく「収支が回るか」で判断する
融資が通っても、金利上昇や空室で赤字になれば意味がありません。金利が+2〜3%上がっても耐えられるかをストレステストで確認しましょう。
行動③:営業担当以外の意見を聞く
提案してくる側は売る立場です。物件を売らない第三者に条件の妥当性を見てもらうことで、「通るから買う」という判断ミスを防げます。相談先の比較は不動産投資の相談はどこがいい?相談先5つを比較をご覧ください。
7. よくある質問(FAQ)
Q. 同じ物件なのに、金融機関で価格が違うのですか?
売買価格は変わりません。変わるのは金融機関が判断する「担保評価額」と「融資可能額」です。評価の方法(積算評価か収益還元法か)が金融機関ごとに異なるため、同じ物件でも借りられる額が変わります。
Q. なぜ銀行によって融資額が違うのですか?
主に①評価方法の違い(積算 vs 収益還元)②金融機関のタイプによる方針の違い ③借りる人の属性評価の違いの3つが理由です。地銀は積算評価を、ノンバンクは収益性を重視する傾向があります。
Q.「他行では通らないがうちなら通る」と言われました。買うべきですか?
慎重に判断してください。他行が断ったのは、その物件や計画にリスクがあると判断したからです。また「通る」理由が金利の高さや期間の短さにある場合、収支が厳しくなります。融資が通ることと、投資として成立することは別問題です。
Q. 築古の木造物件は融資が付きにくいのですか?
積算評価を重視する金融機関では、木造の法定耐用年数が22年のため、築年数が経つと建物評価がほぼ出なくなります。ただし収益還元法を重視する金融機関なら、家賃収入が安定していれば評価が出ることもあります。
Q. 融資条件が妥当か、誰に相談すればいいですか?
提案元の営業担当は「売る側」なので、中立な評価は構造的に期待しにくいのが実情です。物件を販売していない第三者に、金利・期間・借入額を含めて確認してもらうのが確実です。
8. まとめ|変わるのは「価格」ではなく「評価」
不動産投資において、金融機関によって変わるのは物件の売買価格ではなく、担保評価額と融資可能額です。その差は、積算評価と収益還元法という物差しの違い、そして金融機関のタイプごとの方針の違いから生まれます。
そして最も大切なのは、「融資が通る=良い物件」ではないということ。通る理由が金利の高さや期間の短さにあるなら、それは投資として不利な条件を受け入れているだけかもしれません。
提案を受けたら、金利・期間・借入額をセットで比較し、金利が上がっても収支が回るかを確認する。そして迷ったら、売る立場ではない第三者に見てもらう。この3つで、判断の精度は大きく上がります。
※本記事は一般的な情報提供です。評価方法や審査基準は金融機関ごとに異なり、また変更される場合があります。個別の融資条件は各金融機関に、税務・法務の判断は専門家にご確認ください。
✍️ この記事を書いた人
山本 尚宏(やまもと なおひろ)
株式会社WonderSpace 代表取締役/「不動産投資の教科書」編集長
メディア運営12年|「不動産投資の教科書」を2014年に創設し、12年にわたり運営。
著書|『不動産投資は、「物件」で選ぶと、99%失敗する』
完全中立|当社は不動産の売買・仲介を一切行っていません。融資条件についても「見送るべき」と正直にお伝えします。
本記事は実務経験と公開情報にもとづき執筆しています。個別の融資判断は各金融機関にご確認ください。
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