大人の嗜みとして許されているものに飲酒と喫煙がありますが、喫煙に関しては嗜好品として扱われていたことは昭和以前という遠い過去のこととなり、今では社会悪という取り扱いになりつつあるのではないでしょうか。
このような社会的背景を反映し、受動喫煙防止法なる法律が制定され、来年には東京オリンピックを迎えるべく日本全体でたばこに関する規制を推し進めています。
そこで今回はこの受動喫煙法の概要をご説明しながら、不動産オーナーとしての対応を考えて行きましょう。(田井能久・不動産鑑定士、ロングステイアドバイザー、タイ・バリュエーション・サービシーズ代表取締役)
・受動喫煙防止法の概要
受動喫煙防止法とは、2018年に改正され、2020年4月1日に全面施行される改正健康増進法を示します。
この法律は、従来は努力義務として喫煙を規制するものであったのを、すべての人に罰則付きで禁煙場所での喫煙を禁じることで、義務化するものです。
受動喫煙とは他人のたばこの煙を吸わされることをいい、特に火が付いたままの煙は「副流煙」と言って害が大きいものなので、問題視されています。
この規制の面白いところは、直接たばこを吸う人に対する規制ではなく、たばこを吸う場所を作る人、すなわち学校、病院、飲食店、オフィスなどの施設の管理に権限を有する人に対して、法律を守らせることを求めています。
病院、学校、行政機関などの最も公共性の高い施設に関しては、原則的には敷地全体を禁煙としています。
その他の施設で店舗規模が小さく、分煙施設を設けることがスペース的にも費用的にも難しい小規模事業者に関しては経過措置として一定の除外がされるようですが、原則的にはやはり屋内禁煙となります。
このように受動喫煙防止法はたばこを吸っている本人に対する規制でなく人が集まる場所を作る人、すなわち不動産関連の仕事をしている人に影響がある点に注意が必要です。
・不動産オーナーの対応は?
受動喫煙防止法により、自分が直接その施設を運営していないものの、土地や建物を貸しているオーナーにどのような影響があるでしょうか?
前述の公共性の高い施設(第1種施設という)には診療所や児童福祉施設も該当しますので、自分は土地と建物オーナーで、診療所がテナントとして入居している場合。
または自分は土地オーナーで、借地人として診療所経営者に貸している場合を考えて行きましょう。
これらの施設は原則敷地内で禁煙ですが、基準を満たした施設を屋外で設置することは認められます。
そうなると当該土地と建物を貸している場合にはテナントの意向に応じて別棟の施設を作るか、それを作ることを承諾する必要があり、賃貸借契約の見直しが必要です。
一方土地のみを貸している場合は、借地人が別棟を作り、それが登記できるような建物ならば、土地上に存する建物について借地契約書に書き加えておく必要があります。
上記以外の第2種施設に定められている事務所や工場や飲食店などでは屋内で喫煙できるようには喫煙スペースを作る必要があるので、こちらは建物内のリフォームやリノベーションをすることになるためやはり契約内容の見直しになる場合もあるでしょう。
このように受動喫煙を防止するための設備を作ることが建物の増築や改修などに関わる場合もあるので、不動産オーナーはその必要性を認めなければならないのです。
・マンションやアパートの今後について
現段階では個人の自宅やホテル等の客室など、人の居住の用に供する場所は適用除外となっています。
しかしこの禁煙化の波は店舗や事務所以外に今後は普通の賃貸マンションや賃貸アパートオーナーにまで及んでいくことが予想されます。
現実に個人住宅のマンションなどで、お隣の住民がベランダでたばこを吸うので、副流煙が部屋に入ってきたとか、洗濯物に匂いがつくというクレームから、ご近所トラブルに発展したという事例もあります。
考えれば公共性がある空間という点ではマンションやアパートの共用部分も公共性が高い空間と言えるので、やがてベランダもダメになり、敷地外で吸うことしかできなくなる日も来るのかもしれません。
そしてそのような管理規約やルールがキチンと備わっていないマンションやアパートはたばこ嫌いの多くのお客様に支持されることはなく、空いた部屋が埋まらないという事態に陥る可能性もあるでしょう。
・オーナーはきちんとした分煙づくりが大切
急激な禁煙化の波は時代遅れの愛煙家オジサンを追い詰め少々かわいそうにも思えますが、たばこが社会に許されている時代は完全に終わってしまいました。
今後もどうしても吸いたい人は、受動喫煙防止法を勉強してその除外施設を探し当てるしかないのではないでしょうか。
不動産のオーナーは行政が用意している補助金や助成金なども活用し、分煙の環境づくりを進めることが必要となってくるでしょう。