金は、2026年に入って一度きりの相場を演じています。1月28日に1トロイオンス5,598ドルという史上最高値をつけた後、話題の中心はホルムズ海峡をめぐる地政学リスクや半導体・AI相場へと移り、金は市場の注目から外れていきました。
その間に価格は静かに下げ続け、6月末には約3,942ドル——ピークからおよそ30%の下落です。「金の時代は終わったのでは」という声も出ていました。
ところが8月に入り、状況が一変します。米国の債務残高が40兆ドルという過去最大に達し、財政の持続可能性への不安が急速に高まりました。ドルが3か月ぶりの安値に沈むなか、金は8月だけで約11%上昇し、4,600ドル台まで戻しています(銀に至っては16.5%高)。
では——この再上昇はどこまで続くのでしょうか。
結論からお伝えします。金価格を支えているのは、短期的な思惑ではなく「2つの構造的な需要」です。ひとつは各国の中央銀行による買い、もうひとつは通貨価値の下落に備える投資マネー。今回の「米国債務不安による上昇」は、まさに後者が表面化したものです。
ただし「上がり続ける」わけではありません。実際、大手金融機関の中には2026年の目標価格を引き下げたところもあります。本記事では、不動産投資の教科書を2014年から12年運営する山本尚宏が、金価格の見通しを上昇要因と下落リスクの両面から整理し、最後に不動産投資と組み合わせる視点までお伝えします。
📌 この記事の結論
- 2026年の値動き:1月に最高値5,598ドル → 6月末3,942ドル(▲約30%)→ 8月に米国債務不安で約11%反発し4,600ドル台。
- 金価格を支えるのは①中央銀行の買い ②通貨価値下落へのヘッジ需要という2つの構造的需要。
- 中央銀行の購入は2022〜2025年に年平均およそ1,000トン。それ以前の10年(年約200トン)から5倍規模に増えている。
- ただし短期は金利次第。利下げが遅れると金には逆風で、ゴールドマン・サックスは2026年末目標を5,400ドル→4,900ドルに引き下げている。
- 金は利息も家賃も生まない。インカムを生む資産(不動産・株式)と組み合わせるのが現実的な使い方。
目次
1. 2026年の金価格はどう動いたか|3つの局面
今後を考える前に、2026年の値動きを3つの局面で整理します。「なぜ下がり、なぜ再び上がったのか」が分かると、先行きも読みやすくなります。
| 局面 | 時期 | 価格 | 何が起きたか |
|---|---|---|---|
| ① 最高値 | 1月28日 | 5,598ドル | インフレ懸念と地政学リスクで史上最高値。国内も1月29日に1グラム30,248円の高値 |
| ② 調整局面 | 2月〜6月末 | 3,942ドル ピーク比 ▲約30% |
市場の関心がホルムズ海峡などの地政学や半導体・AI相場へ移り、金は売られて注目からも外れた |
| ③ 再上昇 | 8月 | 4,600ドル台 月間 約+11% |
米国の債務残高が40兆ドルに到達。財政不安からドルが3か月ぶり安値となり、金に資金が回帰 |
注目すべきは②から③への転換の理由です。8月の上昇は、地政学リスクでも金利低下でもなく、「米国という国の財政そのものへの不安」が引き金でした。米財務省が長期国債の買い入れ計画を予想外に増やしたことで債券利回りとドルが下落し、その受け皿として金が買われた——という構図です。
つまり今回の上昇は、後述する「通貨価値下落へのヘッジ需要」がはっきり表面化した動きだと言えます。銀も8月に16.5%上昇しており、貴金属全体への資金流入が起きています。
※価格は日々変動します。最新の相場は各取扱事業者や取引所の公表値をご確認ください。
2. 金価格を支える「2つの構造的需要」
ここが本記事の核心です。近年の金価格の上昇は、一時的なブームではなく需要構造の変化によって支えられています。
需要①:中央銀行の買い(脱ドルの動き)
最も重要なのがこれです。世界の中央銀行が、外貨準備をドル一辺倒から分散させる動きを強めています。
| 時期 | 中央銀行の年間購入量 |
|---|---|
| 2012〜2021年頃 | 年 約200トン |
| 2022〜2025年 | 年 約1,000トン(約5倍) |
| 2026年の見方 | UBSは年750〜1,000トン、ゴールドマンは月平均60トン程度を想定 |
ポイントは、中央銀行は値上がり益を狙って売買しないことです。外貨準備の分散という政策目的で長期保有するため、価格が下がっても投げ売りが起きにくく、下値を支える買い手になります。これが「構造的」と呼ばれる理由です。
需要②:通貨価値の下落に備える投資マネー
もうひとつが、基軸通貨である米ドルへの信認が揺らぐことへの備えです。財政赤字の拡大や中央銀行の独立性への懸念から、「現金で持つリスク」を意識する投資家が増えました。
その結果、ファンド経由の金需要は2025年11月末までの年初来で700トン超に達したとされます。これは年間産出量の2割弱に相当する規模です。金は増産が難しく供給が限られるため、この需要増は価格に効きやすくなります。
3. それでも「上がり続ける」とは限らない|3つの下落リスク
強気材料だけを見るのは危険です。金には明確なリスクもあります。
リスク①:金利が下がらないこと(最大の逆風)
金は利息を生みません。そのため金利が高いと「金を持つより債券や預金のほうが有利」となり、相対的な魅力が下がります。
実際、ゴールドマン・サックスは2026年末の目標価格を5,400ドルから4,900ドルへ引き下げました。理由はFRBの利下げが後ずれし、2027年まで遅れる可能性が出てきたためです。金の短期的な値動きは、金利見通しに強く左右されます。
リスク②:地政学リスクの後退
金は「有事の金」と呼ばれ、紛争や不安が高まると買われます。逆に緊張が和らげば、その分の買いは剥落します。上昇の一部が地政学要因である以上、この反転は常にあり得ます。
リスク③:すでに大きく上がった後という現実
数年で大きく値上がりした後です。「これから上がる」ではなく「上がった後に買う」ことになっていないか、冷静な確認が必要です。金の急落局面で何が起きるかは金が暴落したらどうなる?2026年の下落原因と株・不動産への影響で詳しく解説しています。
4. 大手金融機関の見通しは割れている
専門機関でも見方は一致していません。「プロでも意見が分かれる」という事実自体が重要な情報です。
| 機関 | 見通し |
|---|---|
| ゴールドマン・サックス | 2026年末目標を5,400ドル→4,900ドルへ引き下げ(利下げ後ずれが理由)。ただし中央銀行の買いは支えと評価 |
| UBS | 中央銀行の年間購入750〜1,000トンを見込み、構造的な強気相場は継続との見方 |
| バンク・オブ・アメリカ | 12か月目標6,000ドル(強気シナリオではさらに上) |
| J.P.モルガン | 年末6,300ドルを目標 |
目標価格に4,900〜6,300ドルという幅があること自体が、先行きの不確実性の大きさを示しています。「専門家が上がると言っているから」で判断するのは危険です。
5.【不動産投資家の視点】金と不動産は「役割が違う」
ここからは、不動産投資メディアとしての視点をお伝えします。
金と不動産は、どちらもインフレに強い実物資産という共通点があります。しかし決定的な違いがあります。
| 比較項目 | 金 | 不動産 |
|---|---|---|
| インカム(定期収入) | なし(利息も配当も生まない) | あり(家賃収入) |
| 収益の源泉 | 値上がり益のみ | 家賃+値上がり益 |
| レバレッジ | 基本的に使わない | ローンで自己資金以上の規模に |
| 流動性 | 比較的高い(換金しやすい) | 低い(売却に時間がかかる) |
| 管理の手間 | ほぼ不要 | 必要(入居者・修繕対応) |
| 金利上昇時 | 逆風(利息を生まないため) | 逆風(ローン返済増) |
だからこそ「どちらか」ではなく「組み合わせ」
金の最大の弱点は「持っているだけでは1円も生まない」ことです。値上がりしなければリターンはゼロで、保管コストがかかる場合はマイナスにもなります。
一方、不動産は毎月の家賃というインカムを生みます。価格が横ばいでも収入が入り続けるのが強みです。
つまり金は「守り(資産の目減り防止)」、不動産は「攻めと守りの両方(インカム+実物資産)」という役割分担になります。金だけに偏らせず、インカムを生む資産と組み合わせるのが現実的な設計です。
※なお筆者(山本)自身も、金ETF(425A・424A)を保有しています。
資産クラスごとの比較はNISAの次の資産運用には不動産投資を|株にない5つの強み、金ETFの選び方は金ETFおすすめ比較|424A・425A含む選び方ガイドをご覧ください。
💡 金や株式に加えて不動産投資もポートフォリオに組み込むことを検討している方は、金利環境をふまえて「今始めるべきか」を中立の第三者に相談する方法もあります。物件を売らない立場でのセカンドオピニオンなら、営業トークに左右されずに判断できます(不動産投資を検討する場合のみご参考に)。
6. よくある質問(FAQ)
Q. 金価格は今後も上がりますか?
中央銀行の買いと通貨ヘッジ需要という構造的な支えは続いていますが、短期的には金利動向に左右されます。利下げが遅れれば逆風です。大手機関の2026年目標も4,900〜6,300ドルと大きく割れており、「確実に上がる」とは言えません。
Q. なぜ中央銀行は金を買っているのですか?
外貨準備を米ドル一辺倒から分散させるためです。2022〜2025年は年平均およそ1,000トンと、それ以前の10年(年約200トン)から大幅に増加しました。値上がり益狙いではなく政策目的の長期保有のため、下値を支える買い手になります。
Q. 金が下がるとしたら、どんなときですか?
主に①金利が高止まり・上昇する ②地政学リスクが和らぐ ③ドルが強くなるときです。金は利息を生まないため、金利が高い環境では相対的な魅力が下がります。
Q. 金と不動産、どちらに投資すべきですか?
役割が違うため、比較して選ぶより組み合わせる発想が現実的です。金は値上がり益のみでインカムを生みませんが、不動産は家賃収入を生みます。一方で不動産は管理の手間と流動性の低さがあります。ご自身が「インカムが欲しいのか」「資産の目減りを防ぎたいのか」で配分を決めてください。
Q. 今から金を買うのは遅いですか?
「高値圏である」ことは事実です。ただし一度に全額を投じるのではなく、時間を分散して積み立てることで高値掴みのリスクは下げられます。資産全体の何%を金に配分するかを先に決めるのが基本です。
7. まとめ|「構造的な支え」と「短期の金利」を分けて考える
金価格の今後を考えるうえで大切なのは、時間軸を分けることです。
中長期では、中央銀行の買いと通貨価値下落へのヘッジという2つの構造的需要が下値を支えます。一方短期では、金利動向に振り回されます。利下げが遅れれば下押し圧力がかかる——だからこそ大手機関の目標価格も割れているのです。
そして忘れてはいけないのが、金は持っているだけでは何も生まないという点。家賃というインカムを生む不動産と組み合わせることで、資産全体のバランスは大きく改善します。ニュースの数字に一喜一憂せず、自分の資産全体でどう配分するかという視点で考えてみてください。
※本記事は2026年8月時点の公開情報にもとづく一般的な解説であり、特定の商品の売買を推奨するものではありません。価格・予想は変動します。投資判断は自己責任でお願いします。
✍️ この記事を書いた人
山本 尚宏(やまもと なおひろ)
株式会社WonderSpace 代表取締役/「不動産投資の教科書」編集長
メディア運営12年|「不動産投資の教科書」を2014年に創設し、12年にわたり運営。
著書|『不動産投資は、「物件」で選ぶと、99%失敗する』
実物資産を横断|金ETF・株式・不動産を保有し、実体験と中立の立場から資産形成を発信。
本記事は公開情報にもとづき執筆しています。個別の投資判断はご自身の責任でお願いします。



