令和という新しい時代を迎えて3ヶ月が経とうとしていて、ますます平成から続いてきた不動産市場は今後どうなるかに注目が集まっています。
年金問題を始め高齢化社会や人口減少社会などの将来に対する不安をあおるニュースは毎日報道され、短期的にも米中の貿易摩擦や消費増税など、減速要因が目白押しではないでしょうか。
今回は最新の景気動向と、不動産市場について考えたいと思います。(田井能久・不動産鑑定士、ロングステイアドバイザー、タイ・バリュエーション・サービシーズ代表取締役)
・令和になって景気はどうなっている?
令和がスタートした5月、お祝いムードに浮かれていた中で3月の景気動向指数が発表されました。
それは一致指数の基調判断を景気後退の可能性が高いことを示す「悪化」に引き下げるものだったため、ついに景気が減速したかと大きな話題になりました。
それに伴い「消費税はどうなるのか?」という世論が沸き起こったため、官房長官はこの景気動向指標の発表後の記者会見にて「消費税率はリーマンショック級の出来事が起こらない限り今年10月に引き上げる」という従来の方針と変わらないことを発表し、沈静化に努めました。
それと同時に自民党幹部は今後の経済状況をちゃんと見極める必要があることも強調したため、消費税増税延期の可能性も否定しなかったことも話題になったのです。
政権を担う政党からそんな話が出るのは、実は我々の知らないところで日本経済はもっと大変になっているのではないかと疑心暗鬼になったことが背景にあるでしょう。
それ以降様々なメディアでも「実は景気後退が始まっている」的な悲観論が多いに広がっていきました。
しかし6月7日発表の4月分の速報値を見ると4月の景気動向指数の基調判断は「悪化」に据え置かれたものの、景気の現状を示す一致指数が2カ月ぶりに上昇したのです。
そして7月5日に発表された5月の速報値では、一致指数の基調判断を景気後退の動きが下げ止まる可能性の高さを示す下げ止まりに引き上げられました。
単に3月の基調判断が悪化になったからと言って消費税延長論がでるなら、5月の速報値を受け少しはポジティブな経済予想が出てきてもよさそうですが、そういったニュースはあまり見られません。
ただ景気を押し下げる要因だけでなく押し上げる要因もいくつかみられるので、踊り場であることは間違いなさそうです。
・不動産市場の動向はどうなる?
不動産市場での様々な動向を見ていきましょう。
実は20代~30代の若い世代に持ち家志向が強く、住宅ローンを抱えている世帯が多いようです。(2019年7月8日付の日本経済新聞より)
企業が寮や家賃補助を減らしている背景があるにせよ、ローン金利が低いことで賃貸より購入の方が得と多くの人が判断していたこと、共働き世帯が増えていることも背景として考えられ、住宅市場は活況といえるのではないでしょうか。
そしてこのように若い世代でも持ち家が多いということは、従来型の景気刺激策がまだ効果を持つことを意味します。
しかし、現在の経済状況は低金利政策はこれ以上やりようがないこと、将来的に高齢化と人口の減少で需要減が避けられないことが、過去とは大いに違っています。
今はいわば金利のバーゲンセールだから売れるのであって、何かのきっかけで金利が正常化してしまったら、現状に慣れてしまっている人にとって大きな負担となるのは間違いありません。
それでも過去なら手放すことで何とか借金も返済できて解決できる方法があったのですが、少子化時代ではいったん購入した不動産を売るというの事はとても難しくなって行く可能性もあるでしょう。
現在の景気はある意味安定しているので、それに伴い不動産市場も悪くないと考えられますが、その景気を支えているものは非常に脆弱な不安定なプラス要因で支えられています。
そして誰でも理解できる確実なマイナス要因が将来いくつでも挙げられ、その解決方法は誰にも分らないことが、不動産市場の先行きが懸念される理由になっているのではないでしょうか。
・不動産市場や景気の実態は人々の「気」
景気の実態が人々の「気」でもあるので、ニュースなどで報道される事件や事象が人々の気を動かすことで、ものが売れたり、売れなくなることもあるでしょう。
不動産もまったく同様であり、ついついネガティブな要因を探しがちですが、それでも不動産との付き合いなしに人は生活することはできません。
ただその付き合い方が、今は賃貸でいいのか、所有がいいのかは、投資すべきかは景気の動向とご自身の状態にも大きく左右されます。
大きな景気動向を把握しつつ、個人の状態をしっかりと見極めて不動産と付き合って行くと良いのではないでしょうか。