引越しや転勤で今住んでいるマンションを手放すことになった場合、「売却」と「賃貸」どちらがいいのか悩みますよね。
どちらがいいのかは長年議論されており、なかなか結論が出ていません。
マンションを売却するか賃貸で不動産収入を得るか悩むのはもっともなことです。
不動産投資や出口戦略を専門としている不動産投資の教科書が、今回は両者を比較しメリット・デメリット、注意点、税金などを多方面から解説します。
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目次
1、売却のメリット・デメリット
(1)売却のメリット
①売却益を得られる
マンションを売却すればまとまった現金が手に入ります。得られる金額は築年数や立地によっても異なりますが、数千万円程度で売れるケースも珍しくありません。不動産価格が上昇していれば買値より売値のほうが高くなり、売却益が得られるケースもあるでしょう。そのお金をもとに新生活で自分が住むためのマンションを購入したり、別の物件で不動産投資をする頭金にしたりすることも可能です。
また、賃貸にすると不動産会社とのやりとりなど、さまざまな手続きをしなければいけなくなります。特に遠方の地域へ引っ越しする場合、トラブルが発生しても気軽に現地で対応するわけにはいかないので、大変な労力がかかるでしょう。売却すればそうした手間がかからなくなる点もメリットです。
・3000万円特別控除
マイホームを売却する場合、賃貸にはない税制優遇を受けられる場合があります。「3000万円特別控除」もそのなかのひとつで、譲渡所得が3000万円までなら非課税になる制度です。たとえば、3000万円で購入した物件なら、売却金額が6000万円まで譲渡所得税はかからなくなります。ただし、利用にあたっては「転居してから3年後の12月31日までに売却すること」などの要件がいくつか設定されている点には注意しましょう。
②維持コストから解放される
マンションは所有しているだけで維持コストがかかります。たとえば、固定資産税や管理会社に支払う管理費です。いずれも毎年支払わなければいけないので、トータルで考えるとかなりの出費になるケースがあります。
もちろん住み替えのために不動産を購入すれば、また維持コストを支払うことになりますが、賃貸住宅に引っ越すならば、そうした維持コストから解放されることになります。売却によって現金を得られるだけでなく、支出も減るので手持ち資金を増やしやすいでしょう。
・築年数の古い大規模修繕積立金
マンションの維持管理コストのなかでも気を付けなければいけないのが、大規模修繕積立金です。なぜなら、マンションは築年数が古くなればなるほど修繕する箇所は増えていくため、一般的に集めるお金支出も増えていくからです。そのため、大規模修繕積立金の集金額が増える前に、一定年数で売却して買い替えるのも選択肢のひとつだといえます。売却を検討するときは売却価格だけでなく、タイミングを考えることも重要です。
(2)売却のデメリット
①なかなか売れないときがある
マンション売却は売主の希望通りに進むわけではありません。不動産のように高額の取引になる場合では、買主との交渉によって商談が進んでいきます。そのため、マンションを売却したいからといって、すぐに売れるとは限りません。誰もが「できるだけ高額で売りたい」と考えるものですが、相場よりも高い金額で売却価格を設定するとなかなか売れないでしょう。不動産売却は一般的に物件を売りに出してから成約まで早くても2~3カ月、遅いと1年以上かかります。
特に売りに出す物件の住宅ローンが残っている状態で次のマンションを購入する、いわゆる「買い先行」になると二重ローン状態が続いてしまいます。すると、一時的に生活が苦しくなる恐れもあるので気を付けなければいけません。
②売却価格がローン残債より低いときがある
売却価格についても、売主の思い通りにならないケースは多いです。買主は少しでも安く購入しようとするので、「想定していた価格より安くしないと売れなかった」という事態もよくあります。特に売主が売却を急いでいることが買主に見透かされてしまったときは、安く買いたたかれてしまいがちです。一般的に売却金で住宅ローンの残債を清算しますが、売却価格があまりにも低いと残債が残ってしまう恐れもあります。
・貯金等から清算
仮に住宅ローンの残債が残ってしまった場合、貯金などの金融資産で穴埋めをするのが一般的です。すると、新生活の準備資金が減ってしまい、満足度は低下するでしょう。また、老後資金を取り崩さなければならないケースもあり、売却することで将来の生活が苦しくなるかもしれません。
・住み替えローン
住み替えローンとは、自宅を売却しても残債が残ってしまう人を対象にした住宅ローンの一種で、売却した物件の残債と新しい住居に住むための購入資金をまとめて貸してくれます。住み替えローンのメリットは、自己資金がなくても家の買い替えができる点です。イメージとしては、残債に次の物件の住宅ローンをプラスする形になるので頭金がいらず、手元に資金を残せます。
注意点としては、売却と購入の決済日をそろえなければいけないので、スケジュール調整が必要になることです。
・特例税制
物件の売却価格が購入価格を下回った場合、「居住用財産に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」が使えることは知っておきましょう。この特例は簡単にいうと、「物件の売却で損失が出た金額を給与所得など、ほかの所得と相殺できる制度」です。申請にあたっては確定申告が必要になりますが、所得税や住民税の支払いが大きく減少するケースも多いので、忘れずに手続きをしましょう。
2、賃貸のメリット・デメリット
(1)賃貸のメリット
①家賃収入が得られる
所有しているマンションを賃貸にする最大のメリットは家賃収入が得られることです。家賃収入は毎月定額で得られるため、うまく活用すれば大きな副収入になるでしょう。
投資にはほかにも株やFXなどがありますが、どちらも日々の値動きを確認しないと大きな損失を被るリスクがあります。それに対して、賃貸マンションなら入居者が決まれば何もしなくても一定収入が得られる点は大きなメリットです。仕事で忙しいサラリーマンでもマンション経営をしながら普段通り働いている人もたくさんいます。
一般的に不動産投資には多額の初期投資が必要ですが、もともと所有している物件なら必要ありません。立地や設備などにもよりますが、人気のある物件で住宅ローンを返しても利益が残るようであれば大きなリターンが期待できるでしょう。
②節税になる
物件を賃貸して得られる家賃収入は不動産所得に分類されます。給与所得を得ている人は、基本的に源泉徴収と年末調整で所得税を納めていますが、「年間で20万円以上のほかの所得がある場合」は確定申告をしなければいけません。確定申告というと、「手間暇がかかって大変」というイメージを持っている人もいるでしょう。しかし、各種の経費計上をすることで節税になる場合もあるので、それなりのメリットもあります。
不動産経営で経費計上できる支出には「マンションの管理費や修繕積立金」「ローンの利息部分」「固定資産税や都市計画税」などが挙げられます。賃貸せずに自分で所有していた場合には、これらの支出は経費にできません。もともと支払わなくてはいけない費用の多くを経費にできるのは大きなメリットです。
そのほかにも、入居者が退去するときに部屋を元通りにする原状回復費用や確定申告を税理士などに依頼する場合の支出も費用計上可能です。仮に赤字になっても、給与所得と合算して申告できるので、支払う所得税や住民税の節税につながります。
③将来再び住める
賃貸にすれば所有権は自分が所有していることに変わりありません。つまり、将来帰ってくることがあれば、再び住むことも可能です。売却した場合は所有権が移ってしまうため再び住むためには買い戻す必要があり、手間がかかるのはもちろん、手数料などの費用が無駄にかかってしまいます。帰ってくる可能性があるうちはとりあえず賃貸にしておき、可能性が完全になくなった段階で売却するという方法もあります。
・転勤などで再び住むことが前提の場合
賃貸なら将来再び住めるといっても、すでに入居者がいる場合は出ていってもらわなければいけません。しかし、日本では借地借家法によって入居者の権利が守られているため、退去してもらうには正当事由が必要です。実際に出て行ってもらうにはかなりの労力と費用がかかるため、転勤などでいつか帰ってくることが確実な場合には入居者と定期借家契約を結ぶとよいでしょう。定期借家契約とは期間経過後に再度契約を更新する場合は、貸主と借主双方の合意が必要になる契約です。貸主が新たに合意しなければ、借主は契約期間経過後に退去しなければいけなくなります。
(2)賃貸のデメリット
①空室リスクなどの各種リスク
物件を賃貸に出すということは不動産賃貸業を始めるということです。どのような事業であってもそれなりにリスクはありますが、不動産賃貸業でよくあるのが「空室リスク」「家賃滞納リスク」「入居者信用リスク」などです。賃貸を始めた場合でも、これらのリスクのせいで思うように儲からない場合もあります。ただし、各種のリスクはあらかじめ内容を理解していれば、対策を施すことで低減させられるのも事実です。それぞれのリスクの詳細を知っておきましょう。
・空室リスク
一般的に賃貸経営で最も大きなリスクが空室リスクです。賃貸経営は入居者が決まらないと、収入はありません。また、一棟アパートのように複数の部屋がある物件の場合、一人ぐらい退去してもほかの部屋が埋まっていれば収支は黒字になっているケースもあります。しかし、マイホームだったマンション一室を貸し出す場合、退去されてしまうと収入は一気にゼロになります。すると、次の入居者が決まるまで固定資産税やローンの支払いなどの負担が重くなってしまうでしょう。
・家賃滞納リスク
入居者が決まっても、必ず家賃収入を得られるわけではありません。なかには家賃を滞納する入居者がいるのも事実です。家賃を滞納する理由は人それぞれですが、滞納されている間は家賃収入が途絶えてしまいます。しかも、借地借家法で借主の権利が保護されている関係上、家賃を滞納しているからといってむやみに入居者を追い出すことはできません。追い出すには裁判を起こす必要がありますが、かなりの労力がかかります。不動産会社はあらかじめ入居者審査を行っているものの、家賃滞納リスクのすべてを防げるわけではないことは理解しておきましょう。
・入居者信用リスク
家賃滞納リスクと同様に、「入居者の質」が関係するリスクとして入居者信用リスクがあります。具体的には、トラブルを起こす入居者のことで「騒音トラブル」「ゴミ出しトラブル」などです。トラブルが発生すると近所迷惑になってしまうため、対応する手間が増えます。遠方に住んでいる場合には最初のうちは気づかず、騒ぎが大きくなってから知るという可能性もあるので注意しなければいけません。入居者信用リスクは最悪の場合、損害賠償にまで発展する可能性もあるので、家賃滞納リスクと同じく事前の入居者審査が重要です。
・売却時のリスク
賃貸中の物件を売却する場合、家賃収入を得る目的で売買する「収益物件」という扱いになります。いわゆるオーナーチェンジと呼ばれる取引ですが、この場合は自分が住むことを目的にする「実需目的」で探している人には売れません。もしも事情が変わって売却することになった場合、ターゲットになる人が少なくなるのはデメリットだといえます。一方、空室の状態で最初から売却を考えている場合は購入者が自分で住むか賃貸にするかは自由なので、こうしたデメリットは当てはまりません。
また、一般的にマンションは実需のほうが高く売れる傾向にあります。なぜなら、収益目的で購入する人は利回りを重視しているからです。当然のことながら、購入金額が低いほど利回りは高くなるので、少しでも安く買おうとします。それに対して、実需目的の人は「気に入った物件に住みたい」と考えることが多いです。そのため、「少し高いな」と感じても気に入ってくれれば購入してくれる場合もあります。
②投資用不動産ローンになる
自宅を賃貸用にする場合、ローンの種類も変わります。住宅ローンはあくまでも「マイホーム用」に限定したローンです。賃貸マンションには「投資用不動産ローン」というローンが別にあります。ローンは目的別に金融機関が負うリスクが変わってくるので、それぞれのローンはまったくの別物です。
また、超低金利の日本ではできるだけ固定金利期間が長いローンを探している人も多いでしょう。ところが、投資用物件では住宅金融支援機構が実施しているフラット35は対象外なので、固定金利期間が短くなりがちな点も注意する必要があります。
・金融機関に相談を
マンションを賃貸する場合、まずは金融機関に相談しましょう。万が一賃貸している事実を黙っていて、それがバレてしまうと最悪の場合では住宅ローン契約が取り消されるかもしれません。すると、残債の一括返済を迫られてしまう恐れがあります。一括返済を迫られた結果、物件を売却しなければいけなくなるのは本末転倒なので気を付けましょう。
・通常金利が上昇する
住宅ローンが投資用不動産ローンに変わると、一般的に金利は上昇します。なぜなら、金融機関が負うリスクは住宅ローンより高くなるからです。住宅ローンにおける金融機関側のリスクは主に利用者の収入が少なくなって返済が滞ることなので、基本的に利用者の年収や職業などを審査するだけです。
しかし、投資用不動産ローンの場合は、それらに加えて空室リスクや家賃滞納リスクなどを加味しなければいけません。当然リスクは高くなるため、金利を上げないと金融機関の収支が合わないというわけです。自宅マンションを賃貸する場合は、どれぐらい毎月の返済金額が上昇するかも確認しておきましょう。
③住宅ローン控除が受けられなくなる
賃貸すると自宅ではなくなるので、住宅ローン控除の対象からも外れます。住宅ローン控除は「年末の住宅ローン残高のうち、1%部分を所得税から控除する制度」です。たとえば、年末に3000万円の住宅ローン残高があれば、30万円を所得税や住民税から差し引けます。もともとの期間は最長で10年間でしたが、2019年10月からは最長で13年間利用できるようになりました。住宅ローン控除はローン残高によっては非常に大きな節税効果があるので、利用している場合は慎重に判断しましょう。
④売却時3000万円特別控除が受けられない
上述したように、マイホームを売却すれば「3000万円特別控除」が受けられます。しかし、この特例はあくまでも「マイホームで利用している物件を売却した場合に適用される制度」です。つまり、一度賃貸にしてしまうと、その後に売却しようと思っても特例の適用を受けることはできません。将来的に手放すつもりがあるならとりあえず売却し、売却益であらたに賃貸用の区分マンションを購入したほうがよい場合もあります。
3、それぞれのメリット・デメリットを比較
(1)ライフプランから考えよう
売却は所有権を手放す代わりに現金を得られる点はメリットです。手にした現金で新しく物件を購入する頭金にしたり、老後の生活資金にしたり好きなように使えます。維持管理の必要性がなくなる点も大きなメリットで、費用面が浮くのはもちろん手間もかからなくなります。
一方、賃貸にすると安定した家賃収入が得られるうえ、将来自分が再び住むことも可能です。売却の必要性を感じたら後日売ることもできます。所有権は持ったままになるので、資産運用の幅が広がる点はメリットでしょう。
いずれにしても、売却と賃貸にはそれぞれメリット・デメリットがあり、どちらを選ぶべきかは人それぞれ置かれている状況によって異なります。売却するときの損得勘定だけでなく、結婚や出産、子どもの入学といったライフイベントなど、これからの人生設計に基づいて慎重に判断することがポイントです。
(2)賃貸に出すことは事業を始めること
①不動産賃貸業という事業を始める覚悟
賃貸に出す場合、物件によっては10%近い利回りで運用できるケースもあります。ローンの返済が終わったときには、大きな副収入になってくれるでしょう。ただし、不動産賃貸業というのは、世間的に「不労所得」のイメージが強いですが、実際にはそんなことはありません。空室が発生した場合には仲介会社へ営業に行ったり、修繕が発生したら業者とスケジュールを調整したりする必要があります。管理会社へ依頼すればそうした手間はある程度省けますが、それでもすべての手続きを任せきりにするのはリスクが高いです。
賃貸経営を始めるのであれば空室リスクや家賃滞納リスクなど、さまざまなリスクに自分が向き合う覚悟がないと経営を軌道に乗せるのは難しいでしょう。どのような資産運用にも言えますが、大きな利益にはそれなりのリスクも伴うものです。
②判断の目安は駅から徒歩10分かどうか
賃貸向きの収益物件は実需物件よりも立地が重要です。なぜなら、実需物件は基本的にずっと住むことになるので部屋のデザインや生活環境が気に入れば、多少駅から遠くても納得するケースがあるからです。それに対して、気軽に引っ越せる賃貸物件は一生涯そこに住むわけではないので、デザイン性よりも利便性を重視する人が多い傾向にあります。賃貸向きの物件かどうかは一言では言えませんが、「駅から徒歩10分」を目安にしましょう。
駅から徒歩10以上になると、公共交通機関の利用を不便に感じて入居者が躊躇する確率が高まってしまいます。駅から徒歩10分以上かかる物件は賃貸ではなく、売却をメインに検討したほうが無難でしょう。
まとめ
所有するマンションを売却するか、賃貸にするかは「自分の将来設計に合わせて検討すること」が重要です。それぞれのメリット・デメリットを分析し、自分に合ったほうを選択することで後悔する可能性は低くなります。これを機に自分の人生計画を見つめ直してみてはいかがでしょうか。